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書店へ営業に行くなら
最近は、出版社の営業マンだけでなく、編集者や著者の方が直接、書店営業に行く機会が増えているようです。
では、私、仁藤雄三が新車の営業を8年間やって学んだこと、気づいたことからお話したいと思います。私は、トヨタ東京カローラという会社で新車の営業を 8年間やってきました。
入社当時は、飛び込みや商店街の端から端まで訪問し、名刺交換をするといったこと、電話営業、法人開拓といったことまで色々な営業法をやってきました。
その中で、何百万円というクルマを買ってもらうには、先ず、トヨタ車の魅力を知ってもらうことだと考えました。そこで行動したことは “商品の説明” でした。
カタログを持って
「こんな機能がついている!」
「これができるようになった!」 といったものです。
具体的には、エアバックが全席標準装備になったことやトランク容量が増えたこと、燃費が向上し、クラストップレベルになったこと、大きい見た目のわりに小回りがきく点などクルマの説明をすることに力点を置いたのです。
結果、お客さんの反応はどうだったか?そう、予想の通り、全然ありませんでした。というより、話せば話すほど相手がひいていくのです・・・。
買ってもらうには “ 商品の良さを伝えること ”。誰もが考える点ですよね。でも、これって売れない営業マンの第一歩だったのです。
考えれば当たり前のことですが、クルマの使用目的や家族構成、使い方、価値観などから新車を買った際に得られる未来図を示すことなく、一方的にこちらの話をしているのですから売れるはずもない!
では、これを書店に営業行く際に置き換えるとどうか?多くの方は本のことを伝えたい、この本は○○○、この本って・・・と書籍の説明をしようと考えます。
でも、この方法、悪いわけではありませんがオススメしません。では、書店員にはどう伝えれば良いのか?それは、本ができるまでの背景や意図を伝えることが良い効果につながります。
言葉を変えてご説明すると、出版の思いや出版に至ったきっかけ、計画、企画、構想、経緯、事情などを話すことをオススメします。
実際に、多くの出版社から営業を受ける立場の図書館流通センター(TRC)の元常務取締役、尾下千秋氏から、出版社の営業について書かれた書籍の一文をご紹介します。
※図書館流通センター(TRC)とは、図書館の選書、発注から装備、納品に至るまでの一連の流れを行なっている取次のような機関。
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※書籍 「変わる出版流通と図書館(日本エディタースクール刊)」から
営業の人が私どもに新刊書を紹介する時、たいていはパンフレットの棒読みです。そんなことは書かれていることをパンフレットを読めばわかることです。
売れ手側が商品知識として知りたいのは、パンフレットに載っていない取材の苦労話とか、編集上の裏話、著者をめぐる話題といったトピックスなのです。
そういう話を織りまぜながら、この本にはこいうメリットや面白さがありますよと言ってくれるだけで生きた営業トークになるのです。
※書籍「変わる出版流通と図書館(尾下 千秋 著、日本エディタースクール 刊)」より
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それから、また違った事例をヴィレッジヴァンガードのPOPからご紹介します。「ライ麦畑でつかまえて(J.D.サリンジャー 著)」という書籍があり、店頭ではこんなPOPがついていました。
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汚ねー大人は、クソ食らえ!!
ジョンレノンを殺した男のポケットに入っていたのがこの本!!
1回は読んでおきたい永遠の名作
※ヴィレッジヴァンガードのPOP より
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つまり、その作品の内容を紹介するのでなく、その作品にまつわる話を紹介することで、その本に興味を持つのです。
それから、書店員がどんな情報を聞きたがっているか、明日香出版の元取締役営業本部長、深水 清氏の言葉を書籍「出版社のお仕事(石野 誠一 著、明日香出版社 刊)」からご紹介します。
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少なくても熱心な人(書店員)ほどそんな他店の情報を聞きたがっているのである。
・競合店の売れ行き
・イベントに関する情報
・市場の変化
・売れ行き良好書の情報
を含め情報を聞いたり、また商品構成についてのアドバイスを含め熱心な人ほど情報に飢えている。
※書籍「出版社のお仕事(石野 誠一 著、明日香出版社 刊)」より
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さらに、書店営業でしないよう心がけることを同じ書籍からご紹介します。
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少なくても書店営業に携わっている以上、左記のことはしないように心がけるべきです。
・書店の多忙な時間帯の訪問はさける(朝の開荷時間、夕方の混雑時)
・書店が意図的に試みていることに対する直接的な批判
・書店の店頭に商品に許可なく触れること(棚の整理など断ってから)
・他書店、他版元、取次の誹謗中傷
・書店の労務問題、人事、取引先とのトラブル等への関与
・未確認情報の提供
※書籍「出版社のお仕事(石野 誠一 著、明日香出版社 刊)」
明日香出版、元取締役営業本部長、深水 清氏 より
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まとめますと、
1、商品説明をしない。要するに、本の内容を中心に話さないこと。
それより、注文したくなる理由を説明するようにする。
注文したくなる理由とは、出版の苦労話とか、編集上の裏話、著者をめぐる話題と
いった “トピックス” を話すこと。
要するに、書店員との共通点を探して共感してもらう。
2、自分の本の案内だけでなく、そのテーマに関連する類書も薦められるようにする。
特に、編集者や著者であればその本の類書はご一読しているはずですので、
下記のような意見や考え方を言ってあげること。
a、ジャンルの傾向
b、読者の動向
c、市場の変化
d、現在の売れ行き良好書など
3、競合店の売れ行き情報
あくまで他店で置いているのだからあなたの書店でも注文してということではなく、
あそこの書店の読者層は○○が多く、だから、こんな書籍が動いているといった
“公正な意見や考え方”を伝える。
4、自分の本の広告展開や著者活動など
5、書店は新刊の情報だけ欲しいということはありません。
書店の売上構成比率を見ても新刊よりも既刊のほうが高いからです。
ですので、既刊の薦め方がうまいかどうかという点も大切な要素になります。
時には、自分の本の返品を積極的に勧めるかといったことも“ 信頼 ”につながる
部分です。
6、注文書やPOP、他店の展開情報などを持っていく。
注文書の内容はしゃべることの補足であること。
書いてあることは言わないようにする。
POPは本当に読者が読みたくなるようなものが書かれているか、キレイばかりが
売れるPOPではない。
多くの書店では手間暇かけて “手書きPOP” が多い。
しかも、その紙は通常、ゴミ箱にいくようなものを使っている。
他店の展開情報は、“手間暇かけずにできる案”や “事例”を持っていく。
7、最終目的は、書店員という “支持者” を見つけること。
「この本が普及する応援をしたい!」と感じてもらえることが大切。
それから、話す時間も可能な限り短く済ませたいものです。理由は、書店員は忙しく時間がないです。
具体的な例をご紹介すると、ある書店では 1日 50人の出版社の営業マンが訪問するそうです。ひとりの営業員に対応する時間を平均 5分としても合計で 250分です。つまり、約 4 時間かかる計算です。
稼動時間 8 時間と考えたら、約半分はいつ来るかわからない営業の対応をしなければいけないということです。当たり前ですが、相手の立場になって考え行動することが重要です。
「そんな当たり前のこと」って怒られそうですが、でも、これが難しい!とはいえ、相手の立場を考えるにはちょっとして視点があれば、実は、簡単に見つけられます。
書店の立場を考える方法については、また改めてご案内いたします。
今回、ご紹介した書籍 「変わる出版流通と図書館(尾下千秋 著)」は 2004年 4月初版と少し古い本ですが、 “出版社の方で図書館に本を置いてもらいたい!”と考えている方にはオススメの書籍です。
特に、図書館が求める出版物や公共図書館、大学図書館の購入方法、購入特質を決める 4つの要素などが紹介されていてこの価格は “買い” です。
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