塩沢 実信 氏より (書籍「出版社の運命を決めた一冊の本」より)
このページは、書籍「出版社の運命を決めた一冊の本(塩沢 実信 著)」から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・「出版事業は企業としてきわめて特異なものである」として、その経営のあり方から、“漁業説”と“農業説”の二通りに分類したのは、評論家の大宅壮一である。
“漁業説”とは、魚の大群のいるところをいちはやく発見し、これに網を打って大漁----つまりベストセラーをつくり、一挙に産をなす業法だという。
しかし、魚業方式だと、シケや不漁がつづくと、すぐに破産に追い込まれる投機性の強いのであるとみる。
“農業説”というのは、地道に一定の土地をコツコツと耕し、わずかではあるが確実に収益をあげる業法である。
年によっては多少の農凶はあるが、いわゆる略奪経営をやると、翌年からは収穫がガタ落ちするので、「もうけすぎないよう、損しないよう」にやっていかなければならぬという。
そして、今日の日本の出版界で、この“農業説”を代表し、忠実に実行している出版社として、大宅壮一は岩波書店をあげていた。
・歴史のある出版社には、もちまえの“顔”がある。その社からの出版物、社屋、社風などから導き出されたイメージがそれである。野坂昭如の節によると、文藝春秋は「株式会社」、新潮社は「古い貴金属店」、講談社は「総合病院」、中央公論は社は「単価大学」だそうである。
・好調の波に乗った「文藝春秋」は、ノン・フィクションを主流においた編集方針から、タイトルに至るまで、他誌にことあるごとに模倣された。しかし、メッキはしょせんメッキであって、本モノを凌駕することはできなかった。
・本を出版して損をしないものは、ミステリー・フィクションである。この種の小説は、出版元の出版目録や、本屋の在庫目録に対して、パンとバターを供給する。
-----メアリー・F・ロデル
●書籍「出版社の運命を決めた一冊の本」より
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