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作家、森村誠一さんが見る “作家 9タイプ”
人にはいろいろな性格があるように、作家もさまざまなタイプがいます。では、その作家にはどのようなタイプの人がいるのでしょうか。作家、森村誠一さんが見る作家の9タイプを書籍『作家とは何か~小説道場・総論(角川グループパブリッシング刊)』より学んでみたいと思います。
----- 書籍『作家とは何か(森村 誠一 著)』 ----------------------------
破滅型
およそ小説を書けるような環境ではないところに自分を追い込まないと書けないタイプ。
流連荒亡、紅灯の巷に身を置き、果ては乱酔して、時には暴力沙汰に及び、心身を痛めつける。このタイプは一人ではできない。
これを支える、あるいは破滅を助長する女性陣、編集者、出版社の存在が必要である。今日、このタイプはほとんど絶滅している。
社会のシステムが破滅型を許さなくなり、破滅型女性陣と編集者もいなくなったからである。
同人誌型
純文学畑に多い。学生時代から同人誌に属し、卒業してもほとんど社会生活の洗礼を受けず、狭い同人誌の世界でひたすら文章修業に明け暮れる。
各同人誌には牢名主のような自称作家がいて、既成作家の作品をこき下ろす。狭いサロンのような同人誌が犇き合っているが、それぞれが外には通用しない独自の世界(井戸)を持っている。同人はその中で鳴いている蛙である。有名同人誌になると、井戸から飛び出して流行作家に化けることもあるので、同人はあとを絶たない。
脱サラ型
同人誌型と異なり、社会人、おおむね会社や組織で市民生活を送った後、作家に転じた。同人誌型と異なり、社会生活の洗礼を受けているので、社会常識に富んでいる。一方では、作品がそれぞれの職業に偏したステレオタイプになりやすい。
スペシャリスト(転向)型
脱サラ型と似ているが、前身がサラリーマンでなく、医者や、弁護士や、税理士、僧侶、技術者、官庁の要職などにいて、専門知識に富んでいる。
おおむね前身の専門職に基づいた作品によってデビューを果たし、作品領域を広げていく。作風は脱サラ型よりもさらに専門的になる。
隣接型
脱サラ、スペシャリスト型と多少複合するが、文芸の隣接分野のような編集者、新聞記者、脚本家、ライターなどから作家になった。脱サラや転職という感じではなく、前職の延長線上の形である。出版、文筆の業界に詳しく、顔も広い。だが、知りすぎているために、同業者から敬遠されるきらいがある。
便乗型
転向型の一種であるが、映画、芸能、スポーツ等で一応の功成り名を遂げ、その知名度に便乗して小説を書き始めるというタイプ。すでに名前のポピュラリティがあるので最初から読者がついている。だが、他の芸や技と文芸ではおのずから異なり、なかなか本職のようにスーパースターにはなれない。
虚匠型
名前は業界に浸透しているが、これといった作品がない。文壇という一種の曖昧な業界の遊泳術に優れていて、そのスポークスマンのようにマスコミによく登場するので、いつの間にか巨匠のようにまつり上げられているが、書店に本はほとんどない。図書館の化石コーナーにようやく古い作品が埃を被っている。
休眠型
デビュー時、大活躍をしたが、その後しばらく鳴りを潜めていてから、突如目を覚まして、デビュー当時以上の活躍をする。休眠期間が長ければ長いほど、インパクトは大きい。虚匠型は時に休眠型に転ずることもあるが、虚匠は作品を発表しないだけで、休眠しているわけではない。
化石型
虚匠がこけむしてくると、化石になる。もはや文壇を遊泳することもなく、名前だけは通っている。死んだとおもっている人が多い。
●書籍『作家とは何か~小説道場・総論』より
森村 誠一 著
角川グループパブリッシング (2009年4月初版)
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