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ベストセラー・ロングセラーとは何か
寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏
何部からベストセラー?ジャンルによっても異なる出版界の傾向
2010年上半期のベストセラーが日版・トーハン・オリコンから発表された。各々順位に特徴があるもののここでベストセラー・ロングセラーを考えてみよう。
書籍で100万部以上の実売部数をミリオンセラーと指すのは誰しも認めるが、ベストセラーという言葉は何冊売ったらベストセラーかは曖昧であり出版社の規模・ジャンルによって異なり線引きは難しい。更に
倉庫から出庫した部数をベストセラーというが全てが読者の手元に渡ったわけではない。出版業界では10万部を印刷するとベストセラーと言われるようであり児童書の場合は2万部でベストセラーとされることもある。
発行部数と実売部数は異なる。自己申告だし返品も加味されていない
出版社が発表する発行部数と実売部数ではかなりの差が出る。発表される発行部数は出版社による自己申告に任されており、日本ABC協会のような公的機関による部数認定は存在しない。ベストセラーと公表されている出版物についても第三者機関による統計調査はされていない事に注意を要する必要がある。
現実に発行年度毎にベストセラー・ミリオンセラーと騒がれて世間の波に乗ったのは良いが、その波に乗りすぎて6ヵ月後に書店から大量に返品され、その地位を滑り落ちても誰にも咎められるわけではなく、既に関心が無い程度のものである。後になり新古本書店に陳列されるケースが多いのもベストセラーといわれている。
ロングセラーの傾向は、「勝手に長期間にわたって売れ続ける」
一方ロングセラーは中古本書店にはあまり出てきてはいない様である。ベストセラーと言われている商品は、そもそもメディア誘導型の商品が多く最初から商品価値そのものは無いに等しいが、メディアの巨大な影響と口コミにより、それがさも必要であるかのような錯覚を起こす人々が多いとベストセラーになる可能性は十二分有ると思う。
ロングセラーは出版社が何の手当てをしなくとも品切れさえ起こさなければ勝手に長期間にわたって売れ続ける、出版社にとって都合の良い商品を言う。結果的にカテゴリーの先駆者的役割を担った商品で我々の日常になくてはならない不変的な価値を提供してくれる。
現在の出版物にそれを見つけるのは非常に難しいが普遍的なものは多数存在する。ロングセラー商品はその名前の如く商品価値があるからこそ長期間にわたり読者から支持されるのであるがそれは書店にも支持されることが大前提であることを確認しておきたい。
ベストセラーとして世に出てもロングセラーになるとは限らないし(大多数がならない)、ベストセラーにならなくともロングセラーとして販売され続けることもある。どちらも結果論ではあるが出版社が意識してロングセラーを作り出すことは難しい。どちらの商品もたいした違いはなく長年生き続け支持されるのか、瞬間的に生きて散るのかその商品の生き様の違いだけと思われる。
ベストセラーは急がなければ新古書店で購入するか図書館で借りるのも一つの方法である。時流に流されない新古書店で本を手に取ると残るものと消えるものが理解できるし、100円均一の棚には昔のベストセラーがならんでいる。これを今読むとどう感じるのか、その本がベストセラーになった時代が見えてくるような気がするが如何か。
寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏