鈴木 信一 氏(書籍『文才がなくても書ける小説講座』より)
このページは、書籍『文才がなくても書ける小説講座(鈴木 信一 著)』から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・書くということは不足を埋める作業です。したがって、書きながら睨むべきは、それまでに書いた文章です。何を書いたのか。何を書いていないのか。そのみきわめをすれば、書くべきことはおのずと見えてきます。このことを知っている人は、書くことに何の恐れも抱きません。
・書くことで、見えなかったものが見えてくる。予定していなかった世界が開ける。書くことの第一の喜びはここにあります。すでにあるものを文字化していくことが書くことなら、書くことほどつまらない仕事はないのです。
ところで、書くことの第二の喜びはいったい何でしょう。そうです。書いたものが広く読まれ、読まれたうえで読者の共感を得ることです。
・決して無理強いはしない。これが小説の話法です。
・伏線は、文字どおり「伏せて待つ」技法でした。読者に説明したり、押しつけたりすりことを嫌い、探してもらいたくてじっと伏せている。仮に探してもらえなくても、恨まない、つべこべ言わない。まさしく文学の作法であったわけです。
・言葉の三つの働き
a、意志や情報を伝える。
言葉の働きをこのように考えている人は多いと思いますが、言葉の働きで重要なのは、むしろ次の二つです。
b、ものごとを認識する。
c、ものごとをあらしめる。(中略)
言葉がなければ、人間はものごとを認識することができない。(中略)
言葉を通して「b、ものごとを認識する」のが読者であるなら、言葉を創り出して「c、ものごとをあらしめる」のが作者です。つまり、文学の仕事とは、これまでになかった未知の感触を、新しい言葉によってこの世にあらしめることにほかならないのです。では、そういった例を具体的に紹介します。次に挙げるのは、「第十七回 伊藤園お~いお茶 新俳句大賞」の入賞作品の一つです。
なめくじは 走っているの かもしれず
大阪府、近藤和子、77歳(中略)
ここには、まさしく未知の感触があります。
・タブーと言っては大げさですが、小説での使用を勧められないものに、次の三つがあります。
①接続詞
②指示語
③副詞
・書き手を目指すなら、己を排して、表現に忠実な読みを心がけるべきです。そこには他者理解という苦痛や、表現の呪縛という息苦しさが伴うかもしれません。しかし、真に有益な読書が実現するのは、そうした困難に打ち勝ったときだけなのです。
・読むことは書くこと
読む行為が、いつの間にか書く行為になってような「読み」。これが「正しい読み方」です。具体的には、先の展開を予測しながら読んでいくことですが、予測ははずれこともあります。
・「感想」も「思い出」も、書くからこそ形が見えてくるのです。そして、この「見えてくる」という経験からが、じつはとても大事なのです。その経験がなければ、世界の奥行きは感知できないからです。奥行きが感知できなければ、人生は豊かになりません。
●書籍『文才がなくても書ける小説講座』より
鈴木 信一 著
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