山本 明文 氏 書籍『12人の優しい「書店人」』より
このページは、書籍『12人の優しい「書店人」』(山本 明文 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・書店では、一日に二〇〇冊も発行される新刊本をすべて把握することができない。そもそも、それだけの量を置くスペースがない。次々と納品される新刊本と引き換えに、次から次へと返品させる既刊本。(中略)本の寿命はますます短くなる。
・往来堂書店(中略)
入り口から入ってすぐ右手から始まる壁面、全部で七本の棚は、店長の笈入建志さんが独自に作る棚だ。
・往来堂書店(中略)
一冊の本から他の本へと関連付けて棚を構成する方法は、往来堂書店の初代店長、安藤哲也氏が始めて「文脈棚」として業界に知られるようになった。同じような自由な発想から売場を作る手法は、ヴィレッジヴァンガードが有名である。
・田中淳一郎が目指す「自立した書店員」への道筋(中略)
出版社、取次は「責任販売制」(中略)実行に移してきた。(中略)その一つが、日販が進めているのが「SCM銘柄」だ、まず、日販と出版社、日販と書店がそれぞれ別個に「SCM基本契約」を結ぶ。日販が「SCM銘柄」を選定し、その書籍を書店が日販に注文を出せば、出版社は必ず二週間以内に全数出荷する。書店はその書籍の返品率を一五%以下にするように売り、仮に一五%を超えることがあれば契約を解かれる。日販は出版社へペナルティを支払う。三社がリスクを背負って返品率を引き下げようという制度だと言われている。
一方、二〇〇九年から筑摩書房など出版社八社が始めたのが「35ブックス」だ。現行、二二~二三%の書店の利益を三五%に引き上げる代わりに、売れずに返品となった書籍の引き取り価格も三五%にする。現行の委託制度では売れ残った本の代金はまるまる返る計算だが(中略)、「三五ブックス」では三五%しか返らない。書店にとっては、売り切れば今より高いマージンが手に入るというインセンティブが働き、売り残ればペナルティになる。
・田中淳一郎が目指す「自立した書店員」への道筋(中略)
POSレジの導入(中略)
発注の根拠として出版社の営業に見せて欲しい本を確保するのに役立てたり、このスリップを使うこなすことがワンランク上の書店員になる関門であった。
・田中淳一郎が目指す「自立した書店員」への道筋(中略)
東京で売れるものは、地方でも売れる可能性が高い。
・書籍は通常、委託販売のかたちで書店が預かっていることになっているが、実際には仕入れのひと月後に支払いが生じる。委託ではなく、実態は「返品条件付きの売買」と表現する人もいる。
・責任販売制への動きが活発化している。中でも話題を呼んだのが、二〇一〇年春発売の『ロスト・シンボル』(角川書店、ダン・ブラウン著)だ。
角川グループパブリッシングは、この作品を「責任出荷商品」と位置づけ、初版で買切版と委託版の二種類を用意して、発売に先立つ二〇〇九年十二月に書店からの予約を開始した。買切版の予約に対して角川書店は全数の出荷を約束し、売れた本一部につき五〇円の販売協力金を支払う(正味は委託版と同じ)。返品は申し込み部数に応じて五%まで認めるというものだ。(中略)
だが、一部につき五〇円の販売協力金は、定価一八九〇円を分母とすると二.六%強に過ぎず、「35ブックス」が一二~一三%まで書店のマージンを引き上げるのに比べるとかなり低めだ。また、五%まで認めるという返品率は、現行の四〇%に比べると厳しく、書店にとってはわずかなインセンティブで大きな責任を負わされたことになる。(中略)
『ロスト・シンボル』の「責任出荷商品」の発表があった同じころ、筑摩書房では同社初の時限再販の導入を発表した。二〇一〇年三月発表の『幕末 写真の時代 【第二版】』を、完全買切を条件に、二〇一〇年八月までは価格を拘束するが、それ以降は書店が自由に値付けできるようにした。
・責任販売制における製再販の取り分 (1冊の書籍に占める売価構造) 単位:%
① 通常の委託販売
著者 : 8~10%
版元(編集) : 35~37%
印刷所 : 25%
取次 : 8%
書店 : 22%
② 35ブックス (返品の引取額が従来の半分)
著者 : 8~10%
版元(編集) : 22~24%
印刷所 : 25%
取次 : 8%
書店 : 35%
③ 『ロスト・シンボル』(角川書店、ダン・ブラウン著) モデル (書店の買取、50円/冊の販売協力金がある)
著者 : 8~10%
版元(編集) : 35~37%
印刷所 : 25%
取次 : 8%
書店 : 22+α%
④『幕末 写真の時代 第2版』(小沢 健志 著、筑摩書房) モデル (書店買取、5カ月以降は自由価格)
著者 : 8~10%
版元(編集) : 17~19%
印刷所 : 25%
取次 : 8%
書店 : 40%
・今の一日一枚POPを描き続ける内田剛の原点
POP王は、どのようにして生まれたのか(中略)
一〇年にわたって描き続けてきたPOPはすでに三〇〇〇枚を超え、その実績から「POP王」とも呼ばれている。
・あまり説明し過ぎずに、感覚を信じて書くのがコツ
POP王 内田剛氏
・オリオン書房ノルテ店 白川浩介さん(中略)
「話題の新刊本は相変わらずすんなりと入って来ませんでしたが、その作家の前作や、その本が好きな人なら絶対読むであろう本は仕入ることができます。大手の版元さんでも新刊本ではなく既刊本ならば問題なく出してくださる。それらを並べて置けば、たとえば新刊本でなくても、ある程度の売上げは稼ぐことができました」
・(※本屋大賞)運営費の資金源としてまず注目したのが帯だった。大賞「内定」後に、出版社に増刷を要請することはすでに触れたが、その際に「本屋大賞」受賞の旨とロゴマークを入れた帯を作ってもらい、ロゴの使用料を徴収することにした。
・内容の詳細な説明に入った注文書のファクシミリは、書店にとって特に珍しいものではない。
・絶版品切れの文庫本を、独自の手法で販売し、古本業界のみならず、出版業界の常識をも覆した「ふるほん文庫やさん」。経営者の谷口雅男は、異能の人として知る人ぞ知る存在だ。
・「ふるほん文庫やさん」でも、六冊お買い上げの方には二冊サービス、一〇冊の方には五冊、二〇冊の方には二〇冊サービスというバンドル企画を考えた。売価は基本的には定価の半額、価値のあるものは高くても一二八〇円。
・追い詰められて行き着いた谷口さん(「ふるほん文庫やさん」経営者の谷口雅男氏)の方法は、実は新刊だろうが古本だろうが、読みたい本を読みたいのだ、という読者の心理に素直に従ったものだ。(中略)
二〇〇一年十月、谷口さんは、小倉のナガリ書店内に、「ふるほん文庫やさん」のミニ店舗開設を果たす。新刊書店を扱う書店の中に、木製の書棚で作った古本文庫のコーナーを作ったのだ。
・「ふるほん文庫やさん」に紀伊國屋書店と提携し、その絶版品切れの文庫が、紀伊國屋書店サイト「Kinokuniya BookWeb」で扱われることになった。
・記者会見の席上、谷口さんは「版元が絶版にした本については古本屋がフォローし、流通している本は新刊書店で、絶版本は古本屋で、という流れを作り出したい」と語り、新刊書店と古本屋はお互いに補い合う関係にあり、“新刊書店は太陽、古本屋は月”と表現した
・特別インタビュー
小城武彦(中略)
◆予期しない本との出会いがリアル書店の利点(中略)
私は丸善に来る以前、某インターネット書店の超ヘビーユーザーで、そこでかなり本を買っていたことがあります。しかし、ある時、自分の書棚を眺めていてゾッとしました。同じような本ばかりが並んでいて、読む本の範囲が広がっていない。インターネット書店では、あらかじめ自分の買いたい本が決まっていて、ログインして検索して買う。もしくは統計処理で似たようなジャンルの本がリコメンーデーションされるので、それを求める。そこに“飛び地”がありません。
・小売業とは、消費者の買物代行業である。
●書籍『12人の優しい「書店人」』より
山本 明文 著
商業界 (2011年3月初版)
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