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日本の電子書籍市場が育たぬ6つの理由 寄稿:冬狐洞隆也氏
日本において電子書籍市場が育たない理由は6つある。
1)コンテンツ数が少なすぎる。
2)著作権問題がややこしく、クリアするのに時間が掛かる。
3)仮にコンテンツが揃ったとしても「売れる」のは別問題。
4)フォーマットが統一せず、国際規格のイーパブ3にするには時間が掛かる。
5)スマホ生活で精一杯の若者が、電子書籍端末機にはお金はかけられない。
6)電子書籍は書店主導でないと根付かない。
1)電子書籍のコンテンツ数が少なすぎる
アマゾンが未だにkindle発売を延ばしているのは、コンテンツが少なすぎることと、日本語の特性を甘く見ていたから。日本の市場は、8割が電子マンガであり、米国の市場とは異質であることの認識が無かった。出版点数では米国は100万点(いい加減なものもある)を超えている。電子書籍が仮に普及したとしても、それが紙の本のビジネスの様には成立しないのを関係者は知っている。
アメリカの電子書籍が普及した理由は2つ
1、米国の書店数は、日本の3分の2に過ぎない。
つまり近所に書店が少ないということ。
2、日本と比べて本が重い。持ち運びに不便ということ。
これら理由からみて電子書籍が普及するのは当然の結果と見ている。
2)著作権問題がややこしく、クリアするのに時間が掛かる
日本では出版社が著者隣接権を有していないため、電子出版を作るのに著者と個別に交渉せざるを得ないので遅々として進まない。著者が老化しているほどその傾向が強い。編集者以外に著者に説明し契約をする人がいないのと、更に編集者の中に電子書籍の契約を説明できない人もいる。著者隣接権を獲得する出版社は、保有するコンテンツの保護と利益に責任を負うわけで、それはそれでコストが掛かる。編集者への啓蒙もこれからの課題になってくるだろう。
3)仮にコンテンツが揃ったとしても「売れる」のは別問題
いくらネット上に掲載しても、アクセスが来なければ配信サイトも、出版社も、著者も、金にはならないと認識している。電子書店が、工夫して電子化した全ての書籍を売ってくれるかと言ったら答えは『ノー』であり、電子書店は掲載するだけで特別なことは何もしない。現状では紙の書籍の実売の20分の1しか平均で売れていない。今ある電子コンテンツサービスはバグや不正流出を恐れるあまり、ユーザビリティに欠けている。これを超えるサービスが出て初めて市場が生まれる。その最右翼はアマゾンとグーグルだと考える。
4)フォーマットが統一せず、国際規格のイーパブ3にするには時間が掛かる
電子書店が乱立したためにフォーマットがバラバラで、互換性が無く、国際規格のイーパブ3にするには時間が掛かる。電子協のEPUB策定に期待する声は多いが、発表された内容を見る限り、まだまだ混乱しそう。標準化にはほど遠い内容だ。
5)スマホ生活で精一杯の若者が、電子書籍端末機にはお金はかけられない
若年層にスマホは人気だが、買い替えの費用や通信料で、金銭的な余裕はなく、スマホ生活で精一杯の若者が、読書をするためだけに電子書籍端末にはお金をかけられない。月額定額制やポイント制がガラケーコミックで普及しており、比較的安定的にコンテンツを購入する土壌は出来ているよう。ガラケー中心でやってきたコミックの配信業者が、スマホにシフトしてきているので、彼らがどんなサービスに打って出てくるのか、「文字もの」はそれに乗っかることが出来るか今後の注目が必要。
6)電子書籍は書店主導でないと根付かない
価格においても他の利便性にしても供給側の論理ではなく、利用者側の便宜を徹底的に優先しなければ受け入れられないのは常識である。アマゾン・バーンズアンドノーブルもネット書店・書店として強力な存在である。書店が主導権を握るアメリカのプラットフォームに比べて電機メーカーや電話会社・印刷会社が主導するプラットフォームが乱立する日本の状況では電子書籍ビジネスが成功できるかどうかは不透明。紀伊國屋・丸善CHIグループ・三省堂書店、以下資本力のある書店が電子書籍に参入するのを注視していかなければならない。
インプレスの予測によると、電子書籍市場規模が2016年には2000億円を突破と威勢のいい掛け声が聞こえてくる。しかし、2015年から消費税が10%になり、生産年齢人口が減ってくるのに、日本における電子書籍がつくる未来は幻想であると言われても仕方がない。
ある調査によると日本のヘビー読者層は16歳以上で推測16,541千人・ライト読者層は33,366千人いるとされている。果たしてこの人数の内、電子書籍に移行する人は何年後か誰にも分からない。
最後に電子書籍が定着してもしなくても、現在の出版流通の売上額が減少することは間違いなく覚悟する必要がある。出版社は電子書籍で売上が上がることは期待してないが、生産年齢口の減少によって紙の本も売れなくなる事を認識すべきである。
寄稿 : 出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏