研究会『和本の出版技術~「本屋」の仕事』(講師:橋口 侯之介 氏、主催:日本出版学会 出版技術・デジタル研究部会)より
このウェブサイトにおけるページは、研究会『和本の出版技術~「本屋」の仕事』(講師:橋口 侯之介 氏、主催:日本出版学会 出版技術・デジタル研究部会)に参加して、良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・和本とは
江戸時代以前の本を総称して「和本」という。明治20年頃を境に現代の「洋本」に切り替わる。主に御経と仏教書が多い。また、和本に使われている和紙は千年もつと言われている。ただし、製本している糸は100年もたない。
・書籍は巻物が起源
書物の誕生は2500年前の中国春秋戦国時代。最初は木簡・竹簡だった。それを巻いて保存した。それが巻物の起源。
・本を大事にする伝統
『伊勢物語』や『源氏物語』が伝えられたのは、内容もさることながら、美しい書物の形態が後世の人たちを引き続けたからである。料紙も雁皮を材料とする斐紙(=鳥の子)が用いられた。裏表に文字が書けて、害虫にも強く高級な紙である。
・商業出版の開始
江戸時代に入ると、この技術を使って商業出版が始まった。※板木による印刷のこと。
「収益」の拡大を考えて書物をつくるためには、購買層の拡大が必要である。そのために一段と工夫がなされた。絵巻物は中世の間は上級の武士や公家などの慰みだったが、これを大衆にも享受させるには、挿絵を入れた印刷本で対応する。
・中間的読者層の広がり
専門書は、たとえそれが高度な思想であっても難解では、一部の学者の間でしか読まれない。現代でもそうである。それを一定のリテラシーがある読者層にもわかりやすく伝えることができれば、本屋の収益にもつながる。(中略)
現代でもこの層の厚みが大きく、盛んな出版活動を支えているのが日本の特長であるが、それは江戸時代に成り立った。
・舞台を室町時代に設定した『源氏物語』のパロディ『偐紫田舎源氏』(にせむらさきいなかげんじ)』(柳亭種彦 作)は、よく売れた。
・明治二十年問題へ
長く続いた和本の世界も、近代の訪れとともに西洋化させて滅びゆくことになった。江戸時代の出版は、その仕組みを複雑化して発展していった。本屋の数も増え、出版物もピークを迎えたが、明治に入って、新時代に対応しきれなかった。江戸時代からの本屋は明治20年前後でおおかた廃業してしまう。人の意識が新時代に対応できなかったのだ。近世と近代のギャップは大きかった。
・江戸時代の教科書
教科書の中(上部)に付録がついていた。付録といっても現在のような「物」ではなく、教科書には全く関係のない内容が書かれていた。それは、出版社から読者へのサービスでもあった。
●研究会『和本の出版技術~「本屋」の仕事』
(講師:橋口 侯之介 氏、主催:日本出版学会 出版技術・デジタル研究部会)より
講師:橋口 侯之介 氏
(誠心堂書店店主,東京古典会会員,成蹊大学大学院文学研究科非常勤講師)
日時:2015年3月18日(水曜日) 18:30~20:30
著作/『和本入門』(平凡社ライブラリー,2011年),
『江戸の本屋と本づくり』(平凡社ライブラリー,2011年),
『和本への招待』(角川選書,2011年)
講演内容:日本の書物文化が花開いた江戸期。当時の出版の現場はどのようなものだったのだろうか。つい100年前のことにもかかわらず,日本の書物や書店の店頭は,現代とまったく別の様相を呈していた。
今回は,誠心堂書店店主として長年,古典籍の売買を手がけてきた橋口侯之介さんに,様々な和本の実物を見せていただきながら,和本の素材や印刷・製本技法,そしてそれを商う本屋の仕事など,和本世界の基礎知識についてご教示いただきます。同時に,古典籍が現在,どのように流通しているのか,日本の古書業界の仕組みについてもご解説いただきます。
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