石橋 毅史 氏 書籍『口笛を吹きながら本を売る~柴田信、最終授業』(晶文社 刊)より
このウェブサイトにおけるページは、書籍『口笛を吹きながら本を売る~柴田信、最終授業』(石橋 毅史 著、晶文社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・柴田サンは一九六〇年代後半から七〇年代、当時は東京・池袋にあった芳林堂書店の店長をしていた。このとき芳林堂は、大型書店として事実上はじめて、本の販売数や在庫数を単品ごとに毎日把握し、店の運営に活かすという仕組みを公開した。
・この歳になると、なにが正しいか、正解か、なんているのは全然面白くないなんだね。形の定まらないまま直感でいくというのが面白い。
・よその書店で『本のコンシェルジュ』とかって言葉が出てくると、ちょっと笑っちゃうんだよ。読者に何かを指南するとか、書店員が目立つ必要はない。黒子なの。(中略)客に教えたりする立場にあると思っていない。
・柴田信は一九三〇年4月十一日、千葉県千葉市栄町(現・中央区栄町)にあった柴田旅館の長男として生まれた。きょうだいは二人。五歳上の姉と、五歳下の妹がいる。
・神保町とのかかわりは、一九七八年に芳林堂書店を退職し、当時は岩波書店の子会社だった信山社へ移籍したことから始まった。(中略)「神保町ブックフェステバル」は、一九九一年の第一回から現在まで、実行委員会の中心メンバーである。(中略)「本の街・神保町を元気にする会の」の事務局長も務めている。
・神保町ブックフェステバル(中略)ひとついえば、人気をあげようと広げすぎないことかもしれない。(中略)枠を決めて、ちょっと壁をつくったほうが、かえって興味をもってくれる人が増えるかもしれない。
・岩波ブックセンターと三省堂書店神保町本店は、二〇〇五年から在庫データを共有し、来店客に訊かれた本がなかったとき、あちらの店ならあります、と互いを紹介するサービスを始めた。
・かつて柴田良平さんは、『良書とはよく売れる本のことなり』と言った。(中略)
『よく売れる本』というのは、あれこれ宣伝して必要以上に買われていく本のことじゃないし、売れっ子がいい作品を書いた場合だけでもない。世の中にいうべきことを、ちゃんとした言葉で表現した本、きちんと編集した本なら、買っていくお客はいるんだ、ということだよね。
・書店は、自分では商品をつくらない。だからこそ誰でもやれたんだけど、資本がないと勝てない世界にしちゃったら、多くの人には無理な話になるよね。(中略)大きな資本の所しか書店ができないようになったら、たぶん本の世界はまずいよ
・岩波書店は一九一三(大正二)年八月、おもに古本、さらに新刊書と雑誌も扱う書籍商として、岩波茂雄は開店した。(中略)しかし、五九年に岩波書店は小売部を閉鎖し、創業以来の直営書店事業は、信山社が店舗を借り受けて営業するかたちに変わった。
・スタッフのなかに、共立女子大学の学生だった頃からのアルバイトで働き、そのまま社員となった白井潤子がいた。仕事に対する姿勢は歴代社員のなかでも群を抜いており、周囲のレベルを引き上げていた。
・取次(中略)
個別に交渉しなくても売場に必要な基本商品セットを送ってくれて、売れなかった本は引き取りに来てくれて、各出版社への支払いもしてくれる取次は、大小を問わず多くの書店にとって、とても便利だったのである。メーカーである出版社にとっても、同じことがいえる。
・岩波ブックセンターの売場面積は七十坪。
・ウチはだいたい月に一千万円の仕入れなんだけど、このうち半分は岩波なんですよ。出た本は全部、置きますからね。あとの五割のうち、人文会の出版社は三割になるかな」------合わせると、六割五分を占めることになりますね。
・書店が直取引中心に変えたい理由は、必ずしも利益率の向上だけではない。柴田サンの場合、それ以上に改善したいのは「支払い方法」だという。(中略)柴田サンにとって負担が重いのは、「まだ売れていない本も含めて、まずは仕入れ分の全額を払わなくてはいけない」という部分だ。
・未払いを重ねると、経営はますます苦しくなる。近年は取次も資金の余裕がなくなっており、いいですよ、待ちましょう、というわけにはいなくなっている。
「だから、売れた分だけを払う流れに変えたい。まず、これがあるんですよ」
・------直取引中心に切り替えて、いまのスタッフの陣容でやっていけますか。
「経理を一人、新しく雇う必要はあるね」
・書店と直取引をメインにしているトランスビューという出版社がある。二〇〇一年に創業し、実質的には編集担当と営業担当の二人だけでやってきた小さな会社だが、同社の流通方法は「トランスビュー方式」と呼ばれるなど業界内でも知られており、いまでは販売代行を依頼する小出版社も増えつつある。
・岩波ブックセンターが、資本のつながりのない現在も岩波書店と特殊な関係にあるのはたしかである。入居しているのは岩波書店の所有するビルだし、その賃貸契約内容や販売成果に対する報奨なども、他書店よりも優遇されている。
・思ったことは、思ったことだけのこと。
言ったことは、言ったことだけのこと。
やったことだけが、やったことなんですよ。
●書籍『口笛を吹きながら本を売る~柴田信、最終授業』より
石橋 毅史 著
晶文社 (2015年4月初版)
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