長江 貴士 氏 書籍『書店員X~「常識」に殺されない生き方』(中央公論新社 刊)より
このウェブサイトにおけるページは、書籍『書店員X~「常識」に殺されない生き方』(長江 貴士 著、中央公論新社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・4ケ月半で5034冊
1ケ月で1713冊
1日で206冊
・「文庫X」は「自由」から生まれました。「自由」からしか生まれなかった、と言ってもいいかもしれません。それは、僕自身の生き方の「自由」でもあるし、さわや書店という書店が持つ「自由」でもあります。(中略)「いかに『自由』を獲得するか」という考え方を提示できればと思っています。
・僕は、表紙を隠したことは「文庫X」という企画の本質ではないと思っている。僕にとって表紙を隠すのは「手段」であって、「表紙を隠す企画」をやりたかったわけではないのだ。
・この作品を広く世に問うべきだと感じた3つの要素ついて書いてみよう。一つ目は、僕が読んで衝撃を受けたこと。(中略)二つ目は、読みやすさだ。これは、ノンフィクション作品としては異例だった。(中略)そして三つ目は、描かれているテーマが日本で生活している全員に関係がある、と感じられたことだ。『殺人犯はそこにいる』
・「文庫X」はこれほど売れると思っていなかった。いやむしろ、売れるはずがないと思っていた。表紙とタイトルも分からず、値段とページ数とジャンルしか分からないのだ。(中略)面白がってノリで買ってくれる人が少しはいるだろう、とも思っていた程度だ。
・「手に入りにくいモノ」を生み出すことができれば、欲しいと思ってもらえる可能性は高くなる。
・とあるネット書店の最終目標が「世の中から小売店をなくすことだ」という話を聞いたことがある。
・小売店が生き残っていくためには何をしなければならないのか・・・・・・。そのヒントの一つはきっと、「体験」にあるのだと思う。
・たまたまやってうまくいくのは「千三(せんみつ)」といって一〇〇〇回に三回らしい。ということは、新しいことをやれば99・7%は失敗するということだ。
・この「文庫X」を、誰かに許可を取ることなく勝手にスタートさせたからだ。会議や打ち合わせなどしなかったし、上司に相談もしなかった。店長が企画の存在を知ったのは直前だし、会社がほとんど何も知らないまま「文庫X」は突然始まった。(中略)
とはいえ、一点だけ許可を取った部分もある。(中略)「返金」についてだ。「表紙を隠す」という企画である以上、お客さんが既に同じ本を持っている可能性があることについて失念していた。(中略)この点だけはさすがに店長に許可をもらった。
・バーコードを隠さなかったのも、同じ理由だ(知識のある人は、バーコードに書かれている数字を見れば本を特定できる。一部あったネタバレじゃ、ネット上に上がっていたバーコードの写真から本を特定したもので。つまり読んでいない人によるネタばらしだった)。
・「文庫X開き」(中略)確かに「文庫X」として情報が秘されている方が、話題性もあるし、「欲しい」という気持ちを持続してもらえるかもしれない。でも、それではダメなのだ。「文庫X」が注目されている状況を終わらせ、中身の『殺人犯はそこにいる』に注目が集まる世の中にしなければならない。そうでなければ、ここで描かれている事実が現実を動かすことはない。
・さわや書店は一地方の書店でありながら、僕が入社する前からずっと全国規模の話題を生み出し続けてきた書店だ。絶版寸前だった『天国の本屋』(松久淳・田中渉 著、かまくら春秋社、のち新潮文庫)を仕掛け映画化にまで押し上げた。『思考の整理学』(外山 滋比古 著、ちくま文庫)を200万部以上売れるまでのきっかけを作った。『永遠の0』(百田 尚樹 著、講談社文庫)を見出し大ベストセラーにした。これらはすべて、さわや書店発の成功例である。
・「文庫X」は売れると期待してスタートさせたわけではない(中略)なぜ売れるはずのないと思っていた企画を実行できたのか。それは、さわや書店が従業員に失敗を許容する環境を作っているからだ。
・会社の人間として名前が出ることになるので、許可や報告が必要だろうと思っていたのだが、店長の返答はこうだった。「許可は要らない。事後報告すら要らないから、勝手にどんどんやれ」。
・さわや書店では、やり方を押し付けられることがない。(中略)売り場づくりに関する大半の部分については、個々のやり方を尊重し、できる部分を伸ばしていくように言われるのだ。
・さわや書店では、できないことに注力するより、できることを可能な限り伸ばすように言われる。(中略)自分にできることが少しずつ理解できるようになってくると、うまく回り始めるようになっていく。
・管理しないほうが人は働く。
未来工業
・本を売る、ということと直接に関係ないことでも、それが地域のためになると思えば、書店としてできることはなんでもやる。さわや書店には、地域に根ざした書店として生きる、そういう覚悟が常にあるのだ。
・さわや書店の外商は、一般的な書店の外商とは全然違うことをしている。(中略)予算のない介護施設に図書館を作りたいという要望に対して、寄付によって古本を集める運動を始めたり、地域で活躍している人を取り上げた本をプロデュースし、それを店で売るという本の「地産地消」のような取り組みを何件か成功させたりしている。
・さわや書店の場合、赤澤社長が一貫して言っているのは、「いかにして地域のためになるか」ということでした。それをちゃんとやって、商売として成り立つような状況をつくることができれていれば、現場には一切口を出さない。経営は自分がしっかりやるから、現場は自分たちでやればいい。そんな話をしてくれたことがあります。
トップがこういう気持ちを強く持っていれば、それは下にもきちんと伝わる。そういう環境だからこそやれることがあるのだと改めて実感させてくれた。
・「文庫X」の取材の際、「この後はどんな企画を考えているんですか?」とよく聞かれた。そのたびに僕は、「企画から考えることはない」という答え方をしていた。僕は目の前に何か状況がないとアイデアが思い浮かばない人間だ。(中略)『殺人犯はそこにいる』という作品と出合い、この作品をどう広めるべきかを考えて、表紙を隠すというアイデアに至った。
・さわや書店は「何もしないことが失敗」というような環境で、ここでもまた「普通ありえないだろ」ということをしても怒られない。
・中小の書店は、「書店で本を買う」という体験そのものを売り物にするしかない、と思っています。であれば、目的買いのお客さんではなく、何か面白い本はないだろうかと店に来てくれるお客さんをいかに増やすか(中略)という点を重視しないといけないと思います。
・POPの役割というのは、「お客さんが抱いているかもしれない先入観を排除すること」というのが第一目的。
・POPの文章を考える時、その作品の「良い点」を推すのはもちろんそうなんだけど、「悪く見えてしまう点」をいかに補うか、という点を一番重視している。「良い点」はお客さんが自分で見つけてくれるかもだけど、「悪く見える点」はなかなか自分では解消出来ないと思うから。
・僕は、同じような客層のお客さんに反応がありそうな本をまとめて並べる、というやり方をしていた。「時代小説」「ミステリー」「ビジネス系の読み物」などの中身で分けることもあれば、「女性向け」「男性向け」「中高年向け」など客層で分けることもある。
・多面展開ではなく、多箇所展開、というのよくやっていた。1箇所に6面で展開するのではなく、1面平積みを6箇所置くというやり方だ。(中略)あちこちに同じ本が置いてある方が、またあった、という感覚になって意識に残りやすいのではないか、と考えていた。
・さわや書店(中略)東京で店長と会った僕は、「僕に何を求めているんですか?」と聞いた。返ってきた答えがこうだ。
「大丈夫。別に何も求めていない。けど、長江くんがこれから書店員としてやっていくんだとしたら、楽しく実力を発揮できる場はさわや書店しかない」
・僕は川崎の書店時代からずっと、読んだ本の感想を書き続けてきた。毎回3000~5000字程度の文章になる。年に200~300冊ぐらい本を読み、1冊読むたびに必ずそれだけの文量の文章を書き続けてきた。本だけはない。映画を見ても、アイドル雑誌を読んでも、同じように文章を書く。もうこれを15年近く続けていることになる。
・僕たちは、世の中の様々な「情報」や「常識」を、自分の内側にある「先入観」によって選別して、取り込んだり排除したりしている。僕たちの「先入観」を通ってからでないと、どんなものも内側に入っていかないのだ。だからこそ、自分がどんな「先入観」を持っているのかを、きちんと把握しておかなければならない。それを意識しておかなければ、自分がどんどん狭くなってしまうだけだ。
・『殺人犯はそこにいる』(中略)清水氏は、マスコミが情報を伝える際には、3種類のやり方を使い分けていると説明する。一つ目は、「目の前の状況を直接見ている」というもの。(中略)台風が目の前に来ている状況でリポートする。(中略)
二つ目は、「特定の誰かが言っている」というもの。(中略)「捜査本部長によると、被疑者は××と語った」というような伝え方だ。(中略)
そして最後が、「特定できない誰かが言っている」というものだ。例えば政治の報道などでよくある、「○○党の幹部によると、総理大臣は××を目指している」というような伝え方だ。(中略)
清水氏が提示してくれた情報の三つの報じられ方。これらを意識することで。情報を発信する側が無意識のうちに囚われてしまっている「先入観」から逃れられる可能性が高まるはずだ。
・「共感」がもたらす功罪(中略)
「共感できないもの」を無意識のうちに排除してしまうということだ。この風潮が日増しに強くなっている実感を僕は持っている。(中略)
「共感できないもの」を無意識のうちに排除してしまう生き方では、自分の想像を超えるものに出合うことはできない。
・本はどんなふうに読んだって構わないだろう、と僕は思っている。
・iPhoneの生み出したステーブ・ジョブズは、自分の子どもにiPhoneを触れさせなかったという(https://sirabee.com/2016/05/03/115544/)。モバイル機器が諸刃の剣であること、そして子供から創造力を奪う可能性があることを理解していたからだ、という。
・ネットは「未知のもの」に出合う可能性が極端に低いツールだ
・様々な人間が様々な価値観を持つことで多様な社会が生まれます。そういう多様な社会で生きることが「自由」に繋がる、と僕は考えています。しかし、「共感」の力が強すぎて、「共感」の輪から外れてしまう少数派がまず切り捨てられてしまいます。切り捨てられた少数派も生きづらいですし、また、少数派を切り捨てる多数派も、多様性が薄まることで「自由」を手放していることになります。
・「フィルターバブル」(中略)ネットでの検索が情報収集の基本となった世の中では、検索アルゴリズムが日々進化しており、自分の知りたいこと、関心があることばかりが検索結果に表示されるようになりました。(中略)
自分の「先入観」の外側にあるはずの、自分がまだ知らないことに出合う可能性を極端に狭めます。
・基本的な発想は、(中略)どうやって「常識」と「先入観」を乗り越えるのか、にあります。
・二村ヒトシ『すべてはモテるためである』(イースト・プレス)(中略)「なにが好きなを自分でわかっているか」ということは、おおげさに言うと「あなたには、ちゃんと自分で選んだ【自分の居場所】があるか」ってことです。
・「他人と違う」ということは、「強さ」を生み出す可能性を秘めている。「他人と違う」ことに苦しんでいる人も、我が子や生徒が「他人と違う」こと悩んでいる人も、それがいずれ「強さ」に変わるはずと信じてみてほしいと思う。
●書籍『書店員X~「常識」に殺されない生き方』より
長江 貴士 著
中央公論新社 (2017年7月初版)
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