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久禮 亮太 氏 書籍『スリップの技法』(苦楽堂 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『スリップの技法』(久禮 亮太 著、苦楽堂 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・本書『スリップの技法』は、僕が新刊書店で18年働いていきたなかで身につけた「スリップを使った品揃えの考え方と実践法」を解説する教科書となることを目指しています。


・売れた書籍のスリップを集めた束は、売れ冊数や売上金額といった抽象的な数字に化ける前の具体的な「売れたという事実」を、個別に、かつ大量に扱いながら考えるための優れた道具です。POSや検索発注システムが、どう使うを考えずに触れても、ただ振り回されてしまうだけです。


・当時あゆみBOOKS瑞枝店でコミックスを長年担当していた今井良さんは、独自の次月発売コミックス売上予測一覧表を作っていました。

発売予定の全タイトルについて、シリーズものなら前巻、前々巻の発売後5日間、1ケ月間、半年間の自店での販売冊数を調べ、1巻読み切りや新シリーズなら参考になる作品について同じように調べ、その数字から予測される最新刊の発売直後に初動と半年間の動きを一覧表にまとめたものです。


・現在流通しているほとんどのスリップには、長いほうに「注文カード」、短い方に「売上カード」と表記してあります。注文カードには、書名、著者名、出版社名、本体価格が印刷されています。加えて、ISBNコードが文字とバーコードの二通りで記載されています。


・スリップは「昨日売れた」という根拠になって次に売れそうなものや方法を考える道具になります。


・各社の出版目録をよく読んでいます。PR誌には、各社の新刊について著者自身の解説や他の作家からの推薦文が寄せられていて、まだ内容を把握していなかった新刊について大まかに理解できたり、PR誌の文中から関連書籍を抜き出して発注したり、POPを書くヒントにすることもあります。


目録を読むことも品揃えの参考になりますが、こちらはすぐ発注するためにというよりは、パズルをしているうちに著者やテーマを覚えてしまうという遊びです。

・雑誌までスリップをつけているというと、時間をかけて馬鹿丁寧な仕事をしているように思われるかもしれませんが、そうではありません。スリップをつけると雑誌をロングセラーにすることができます。


『BRUTUS』(マガジンハウス)、『Pen』(CCCメディアハウス)、『男の隠れ家』(三栄書房)や『散歩の達人』(交通新聞社)など、1テーマの特集に力を入れた雑誌は、書籍やムックと同じように翌月以降も長く売れます。


・書評や広告に採りあげられる書籍は、掲載されてから発注することもありますが、できるだけ事前に店に陳列しておくことを目指していました。


・この章では、売上スリップから何を考えどのような行動をとったのかを、60の事例を挙げて解説していきます。(中略)


60の事例は以下の4つのグループに分けてあります(各要素が混じった例もあります)。

A.備忘のために(中略)
B.業務連絡(中略)
C.連想の引き金(中略)
D.読者像を描き出す


・発行元のクロスメディア・パブリッシングは、仕掛け向きの書籍を多く出版している。売れているビジネス書や女性ライフスタイル書の要素をうまく抜き出すことに長けている印象だ。このように、出版社のスタイルを大まかにイメージしておくと、販売手法を考えるヒントになる。


・『どんなに体がかたい人でもベタッーと開脚できるようになるすごい方法』(Eiko)など、同種の書籍でも大ヒット作にあるサンマーク出版が書籍単行本に1000円という手ごろな値付けをしているのは“怪しい”。


・このスリップのボウズはかなり日焼けしている。長期間、棚に挿さっていたことがわかる。このシリーズは、このお客様が棚にまだ残っている続きの巻を買うかどうかはしばらく様子を見て、返品してしまってもいいのではないか。


・書籍『人間は9タイプ 子どもととあなたの伸ばし方説明書』(著者:坪田信貴、KADOKAWA 刊)のPOPに書いたメモ

これは仕掛けに向いているよ(中略)

子どもへの投資と思えば、親として買わずにはいられない。また、子どもを育てようとしてむしろ親自身が成長させられたと多くの人は感じているだろうから、「子どもとあなた」をセットにしているところも共感を得られそう。


・「ママより女」というキーワードに反応して女性ライフスタイルの平積みコーナーの品揃えを連想しようとしている。「愛されたい」、「美魔女」といった路線で書籍を掘っていくか、「キャリアも家庭もあきらめない」、「エレガントさを失わず自分らしく働く」といった路線で行くか---。


・安定して売れるエロ文庫というと、男性ならフランス書院文庫(フランス書院)、女性ならハーレクイン文庫(ハーバーコリンズ・ジャパン)といった老舗レーベルか、二次元ドリーム文庫(キルタイムコミュニケーション)や美少女文庫(フランス書院)といったライトノベル系ポルノ、ソーニャ文庫(イースト・プレス)やヴェニラ文庫(ハーバーコリンズ・ジャパン)といったティーンズ・ラブ系など、いずれも性別や嗜好ごとに細分化しているものばかりだ。


・プログラミング関連の専門書は、理屈はわからなくてもとにかく掌田津耶乃を追い、彼の本を買う本を追え。そう教えてくれたのは、書店の店長を経て秀和システムで営業を担当していた小塚さんという、癖のあるおじさんだった。


・『プロカウンセラーの聞く技術』(東山 紘久、創元社)は、もう「ビジネス書の大ロングセラー」といっていいほど、多くの店で人文書コーナーよりもビジネス書コーナーで売れたのはないだろうか。


・役に立つ情報であれば自己投資を惜しまない人が多く集まるのがビジネス書コーナーであり、そこでお客様に「役に立つ」と判断されたものはジャンルを問わず売れる。


・ヒット作からつなげられそうなものを連想し、書誌検索や他店視察をして書籍をリストアップする。


・幻冬舎は新聞広告を効果的に使う。彼らが売ると決めた書籍を広告に何度も大きく打ち出すいっぽうで、広告掲載やテレビ放映などの日程に合わせて増刷し小刻みに書店に送品する。発注する冊数や時期、置き方に書店員の見識が現れる


・スリップに書き込むメモは仮説であり、ときに妄想でもあります。その頭を冷やすブレーキがPOSのデータです。ただ、ブレーキだけでは売上も僕自身のやる気も徐々に減速してしまいます。スリップを見て「次はこんな品揃えならお客様も喜んでお財布を開いてくれるんじゃないか」と期待感を


・売上スリップの束は、ある1日の売れ方を掴むのには優れた道具です。1ヶ月、半年といった長い期間に渡ってどんなものが売れたのかといった自店売上の全体像を掴むこと(中略)POSデータが便利です。


・毎日の新刊を漏らさずチェックする

NOCS7やTONETS-Vなどの取次の書店向けシステムでは、毎日の新刊(1日平均で約280点)を一覧表示することができます。(中略)毎日このリストに目を通すことを習慣にすることが重要です。


・メディアカルトリビューンの『ヒトはなぜ太るのか?』(ゲーリー・トーベス、太田喜大義訳)(中略)この本を新刊リストで見つけたとき、僕は発注を迷いました。メディアカルトリビューンは医学新聞社で、書籍単行本も出版していますが、そのほとんどは専門的な医学書です。(中略)


しかしこの『ヒトはなぜ太るのか?』は、医療専門家だけが読む本ではなさそうだと書籍情報から推測できました。(中略)


このように、1冊ごとにその書籍が少数の専門家向けなのか、そうではない一般のお客様も買う可能性があるのかを検討します。趣味や生活実用などのジャンルのなかでも、より少数の読者を想定した専門的なマニアックな内容なのか、そうではないのかを検討します。


・既刊一覧のなかに取次が在庫しているものがあるなら、その書籍は現在でも多くの書店から発注があり、取次も売れていると判断して手元に準備していると推測できます。


・「前年比100%を目指せ」と指示されても、具体的にどこが悪くて、何を改善すれば良いのか、このままではわかりません。(中略)


売上額や冊数はジャンル売上全体のなかでどのくらいの構成比を占めていたのかを明らかにして、現在の自分の品揃えに不足している要素を明らかにする(中略)


知りたい事実はシンプルです。①担当者が主体的に数多くの既刊を売場に投入していたか。②それが実際に売上にどのくらい貢献していたのか(それとも、新刊のヒット作に恵まれただけなのか)。これだけわかれば充分です。


・「昨対プラス10万円」の作り方

では文庫を例にして、具体的にどんなものを何冊くらい売るかを考えてみます。ある店の文庫売場は、昨年の月間売上金額が平均100万円でした。それに対して、今年は月に90万円前後の売上が続いています。どうにかして、毎月10万円の売上を上乗せしたい。文庫の単価を650円だとすれば、154冊分です。(中略)


売上を生んでいないその約50面の平積みを3冊売れるもので置き換えればいいのです。(中略)


毎日の品出しのなかで、売れていない平積みを速く正確に見つけ出すには、やはりスリップに日付と経過を記入し、「これは最近積んだばかりだ」とか「これもわりと最近まで売れていた」といった曖昧な思い込みを排して、根拠のある判断ができるようにしておく必要があります。


・仮説を検証する手順はシンプルです。対象となる書目の他店舗(もしくは全国市場)での売れた数字を見て、自分が仮説に基づいて仕入れた書目の売れ数と比較する。それだけです。


・使ったほうがいい電子情報

◉版元ドットコムの「増刷した本」
http://www.hanmoto.com/bd/juhan(中略)


この一覧はヒントになって発注する場合もあれば、増刷される本の実例集として勉強する場合もあります。(中略)


書店はより多くのロングセラーを見つけ出し売り伸ばすことで売上を底上げすることができます。(中略)これを教材としてつねに見ておくと、(中略)どのような書籍が増刷されるのか------と考えるようになり、品出しの際に早計に返品してしまい後悔することが減ります。


●書籍『スリップの技法』より
久禮 亮太 (くれ りょうた) (著
苦楽堂 (2017年10月初版)
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