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鈴木 敏文 氏 書籍『挑戦 我がロマン (私の履歴書)』(日本経済新聞出版社 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『挑戦 我がロマン (私の履歴書)』(鈴木 敏文 著、日本経済新聞出版社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・本を読む人であればあるほど、ホッとした息抜きの冊子が欲しいのではないか。そう考えて私は、新刊目録の数を減らして軽めの読み物を増やし、判型も従来の半分のコンパクトなB6判に変えて、一冊二十円で販売する改革案を出した。

ところが、部長も役員も(中略)まったく取り合わない。(中略)

「本を売る会社のPR誌なのだから新刊目録をできるだけ多く入れるべきだ」「読書家向けには新刊目録が多い方がよい」という以前の編集方針は、出版物が少なかった時代の経験に縛られた考えだった。

しかし、思い込みをなくし、頭をまっさらにして考えると、「読書家はより多くの新刊目録を求める」という前提は売る側が主体となった考え方で、単に自分たちの納得しやすい話にすぎず、本当のようなウソであることがわかる。


・口頭試問で中学受験に失敗

あがり症を治そうと弁論部へ(中略)

学校の成績は悪くなく、私が落ちるとは誰も思わなかった。原因は極度のあがり症にあった。口頭試問であがってしまい、何も答えられない。


・私はヨーカドーの名前はおろか、総合スーパーという業種についても知らなかったほど、流通業にはまったく関心がなかった。大学の仲間が百貨店に就職したときも、「百貨店のどこが面白いんだ」などと減らず口を叩いたくらいだ。


・イトーヨーカ堂の歴史は伊藤雅彦・現名誉会長の叔父、吉川敏雄さんが大正九年に創業した洋品店羊華堂に始まる。のれん分けで店を持った異父兄の譲さんが急遽し、伊藤さんが引き継いで一九五八年(昭和三十三年)、株式会社ヨーカ堂を設立した。


・人を増やせば、一人あたりの仕事の量が減って時間的な余裕が生まれ、よりよい仕事ができるようになると考えるのは本当のようなウソだ。仕事の量ではなく、質を変えない限り、いつまで経っても生産性は上がらず、成果も出せず、同じことを繰り返すだろう。


・人間は何かにしがみつくと本当の力は出せない。一方で何かにしがみつきながら、もう一方で新しいことに挑戦することなどできない。自分は一歩踏み出したつもりでも、思うように前に進まない人は無意識のうちに何かにしがみついてはいないか。特に組織にしがみつこうとすると、誰にでもいい顔をする「いい子」になりがちだ。


・セブン-イレブンとの出会い(中略)

アメリカではスーパーマーケットやショッピングセンターが日本よりもはるかに発達している。(中略)

日本で活かすことができれば、大型店との共存共栄のモデルを示せるはずだ。新事業を開拓する業務開発の責任者を兼任していた立場から、そう提案すると返ってきたのは社内外からの「無理だ」「やめろ」の大合唱だった。


・素人ばかりで新会社設立

実はこの社員集めが一苦労だった。契約の十日前の十一月二十日、当時、千代田区三番町にあったイトーヨーカ堂本部ビル内の広さ七坪ほどの一室で、新会社ヨークセブン(のちにセブン-イレブン・ジャパンに改称)を社員数十五人で設立した。(中略)


資本金は一億円。「会社を設立するなら、自分たちも出資した方がいい」と伊東社長の意向で、資本金の一部を私以下、四人の役員で貯金をはたいたり、銀行から借り入れたりして個人出資し、周囲の人たちにも参加を呼びかけた。


・私はまったく反対の意見だった。セブン-イレブンの創業の目的が「小型店と大型店の共存共栄」「既存小型店の活性化」にあることを示すためにも、一号店はフランチャイズ店にすべきではないか。そう考えて押し通した。


・セブン-イレブン(中略)五月十五日ついに第一号店がオープンする。早朝、雨の中、一人の男性客が入ってきて店内をぐるりと回り、カウンター横の八百円のサングラスを買った。セブン-イレブン第一号のお客を今も忘れない。


・「江東区から一歩も出るな」(中略)店舗ごとに商圏を隣接させながら店舗網を広げる「ドミナント(高密度多店舗出店)」と呼ばれるセブン-イレブン独自の店舗開発戦略は、このときから始まる。ドミナント戦略は地域での認知度を高める心理的効果が大きい。


・ドミナントが実現できなければ、この事業は失敗する。原則は絶対崩さない。決めた戦略は徹底する。そんな私を「原則居士」と呼ぶ人もいたが、トップとしての役割の最たるものは、ものごとをいかに徹底させることができるか、徹底力にあると私は今も思っている。


・反対されたおにぎりや弁当の販売(中略)

日本ならおにぎりお弁当だが、まわりからは「そういうのは家でつくるのが常識だから売れるわけがない」と反対された。


・商品開発担当チームは、今ある設備を使っていかにおいしいものををつくるかを、それなりに一生懸命考えたのだろう。既存の設備を使えば、コストもかからず、効率もよくなる。

しかし、それはつくり手の都合を優先した発想だ。コストがかかり、効率が悪くても、顧客が「おいしい」と思い、共感共鳴するものをつくっていけば、必ず、結果は出る。「一生懸命やる」のと「正しいことをやる」のとではまったく意味が違う。


・POSは販売データが詳細にわかるがゆえの怖さもあった。人間は数字に表れると強く影響されやすい傾向がある。ある商品が前日何十個も売れると、明日も売れると考えてしまう。しかし、それは過去の実績に過ぎない。明日の天候、温度、地域の行事予定……多様な先行情報から顧客の心理を読み、何が売れそうか仮説を立て、発注し、結果をPOSで検証する。


・セブン-イレブンの経営の特徴は、アウトソーシングという概念がまだなかった一九七〇年代から徹底して外部委託を進めたことだ。効率化と低コスト追求といえばもっともらしいが、要は自前で組織を持つ余裕がなかったのだ。


・利益とはお客様の支持の結果であり、利益こそ商売と経営のバロメーターと考えるべきである


・ 現場のポストを半減(中略)

私が最も危惧したのは、社員の間にはこびる悪しき経験主義と当事者意識の欠如だった。(中略)


部下はややもすると組織において自己正当化をはかろうとする存在であり、これが人間の心理だ。こうした責任転嫁の連鎖を断ち切り、「思うように成果が上がらなくなったのは、商売を取り巻く環境が大きく変化したからであり、仕事の仕方を根本的に転換しなければならない」という意識を徹底させる。私は社員たちにこう訴えた。

「今、私たちに必要なことは、今までの商売のやり方を捨て、素人の素直さを持って、お客様のニーズを的確に知ることではないでしょうか。素人であるということは、キャンバスを一度に真っ白にしてものごとを考えることです」


・死に筋排除の徹底(中略)

よく売れているワイシャツの柄は最終的に四柄に絞り込まれた。メーカーにその四柄に絞って生産するよう要請すると、「アイテムの絞り込みは売り上げダウンを招く」とメーカー側も初めは既存の考え方に縛られた。


・人間は仕事の仕方を変えることに強く抵抗する。改革はむしろ、例は悪いが、経営破綻したあとの方がやりやすく、まだ大丈夫だと思ってる時ときが一番難しい。説得するには相手が納得するまで語り続けるしかない。


・発注こそ店の特権である


・「売れているからいいのか。自分たちが納得できない味の商品が売れていることにこそ危機感を持つべきだ。セブン-イレブンのチャーハンはこの程度かと思われては、売れれば売れるほど信用が失われていくんだ」


・ 役員試食で何度でも NG を出す(中略)

それがある日、格段に向上している。担当者は一枚のグラフを差し出した。縦軸に硬さ、横軸に弾力をとって麺のコシを数値化し、モデル店の麺、前回と今回の麺をそれぞれプロットし、いかに目標に近づいたかを示していた。連敗中は感覚頼りの開発だったが数値化により目標を明確化し壁を突破した。以降、ほかの商品についても、人間の五感と数値データを併用する方法が定着し、多くのヒット商品の開発へと結びついていく。


・決済専門銀行構想に否定論の嵐(中略)

「銀行のATMも飽和状態にあるのに収益源がATMだけで成り立つはずがない」
「素人が銀行を始めても必ず失敗する」……等々。


・セブン銀行発足(中略)

旧長期信用銀行(現新生銀行)の頭取として幕引き役を務めた安斎隆さんを紹介された。(中略)

「顧客だけをしっかり見てください。ほかは見なくて結構です」
私が安斎さんにお願いしたのはそれだけだ。


・一般的に人間は困難に直面すると、自分の過去の経験に基づいて判断する。


・ものごとには必ず、ある一定のレベルに達すると急速に受容や人気が高まる爆発点がある。


・中国では小さいころから、「安易に他人に頭を下げてはいけない」と教えられる。しかも、長く配給制が続いたため、買った側が礼を言っても、売った側が頭を下げるなど想定外だ。


・セブン&アイホールディングス発足(中略)

親会社のイトーヨーカ堂より子会社のセブン-イレブン・ジャパンの方が時価総額が大きい資本のねじれを解消するため、持株会社を設立し、傘下に各社が入る形に再編成する。


・「子供のころ、親父が今日はうまいもの食べさせてやると言うから楽しみにしていたらセブン-イレブンの弁当だった」

息子たちには今も言われる。


・「消費は経済学でなく心理学」という私の持論だ。


・仕事は困難であればあるほど、期限をできるだけ短く区切った方がやるべき課題の本質が見えてきて、逆に不可能が可能になる。


●書籍『挑戦 我がロマン (私の履歴書)』より
鈴木 敏文 (著)
出版社: 日本経済新聞出版社 (2008年12月初版)
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