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貴志 祐介 氏 書籍『エンタテインメントの作り方~売れる小説はこう書く』(KADOKAWA 刊)より

このウェブサイトにおけるページは、書籍『エンタテインメントの作り方~売れる小説はこう書く』(貴志 祐介 著、KADOKAWA 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。


・小説の本質は妄想であると、私は思う。いかに詳細に説得力を持って妄想できるかが、勝負の分かれ目なのだ。そして、もうひとつ。どこまでオリジナリティのある、つまり異様な妄想を紡げるかが重要である。


・アイデアの“種“を拾い上げるために私が日々やっていることは何か。こまめにメモを取ることである。


・アイデアというのは不思議なもので、思いついた直後には、「なんと素晴らしいアイデアを思いついたことか!」と錯覚してしまうようなところがある。

ところが、一定期間をおいてから再確認してみると、「あれ? 思っていたほど面白くないなぁ」とか、「なんだか、ありきたりな気がする」と、トーンダウンしてしまうことが私自身もよくある。(中略)

アイデアにはどうも熟成期間というものが必要なようだ。


・筒井康隆さんの「SF教室」との出会いは衝撃的だった。SFへの愛情に満ちたガイド本で、ここで取り上げられた作品を私は次々に探しだしては読破していくことになる。いずれもハズレがなく、私は一気にSFの虜となったのだった。


・他の作家と話していると、読書事情は二極分化しているように感じる。私の少年時代のような読書量をいまでも維持している人もいれば、他人が書いた作品にはほとんど目を通さなくなったという人もいる。


・じつは私自身、『十三番目の人格 ISOLA』は日本ホラー小説大賞の佳作に入ったという電話を受けたときは、まさに貯金が底をを突こうとしていたタイミングで、「どうせならディテールを小説の設定に生かせそうな仕事に就こう」と、警備のアルバイトを物色していた矢先だった。


・「主題」にとらわれるな(中略)

私自身は、エンタテインメントを執筆するうえで主題を必ずしも意識する必要はないと思う。というのも、ひとつの物語を熟考して書き進めていれば、主題は自然に表現されていくものであるからだ。


・タイトルのつけ方(中略)

書き手としては、やはり気の利いたタイトルをつけたい。しかしその作品への思いやりが深いだけに、一途に考えすぎて凝りすぎてしまい、結果的にあまりいい方向へ運ばない傾向がある。悩みあぐねた場合は、ひとまず時間をおいて、一度頭をクールダウンさせるほうがいい。


・どれだけ緻密に結末まで決めておいても、実際にその通りにストーリーが展開することはほとんどない。必ずどこかで脱線するものだからだ。だからこそ、脱線した場合にどこに戻ればいいのか、最終的にどこにたどり着きたいのか、明確な筋道が必要となるのだとも言える。


・ミステリの重鎮として知られた土屋隆夫が生前、完璧な身代金の受け渡し方法を思いついたが、悪用されることを恐れて作品には使わず封印したという逸話がある。


・専門家に取材を申し込むのは、なかなかハードルの高い作業かもしれない。しかし、できる限りの手を打つことも大切(中略)

ストリートビューなどでは決して伝わらない、現場だけの“空気感“というのが必ず存在するからだ。それを肌身で知ることは、執筆の際にイメージを膨らませる一助となる。


・集めた情報の使い方(中略)

“知っていることを書く“のではなく、“知っているから書くことができる“こともある。知り得たことをすべて文章として表現しなくても、知識や情報は行間からにじみ出るものなのだ。


・キャラクターの「声」をイメージする(中略)

声を聞けば、その人の教養の度合いをイメージできるし、言葉の選び方によって性格や生き様までイメージを膨らませることが可能だと思う。


・キャラクターの「声」をイメージする(中略)

発する「声」が具体的にイメージできるようになれば、そのキャラクターはほぼ仕上がったと考えてもいいだろう。


・主人公にどこまで感情移入できるか、というのはエンタテインメントにとって非常に重要なポイントである。


・キャラクターの弱点は魅力となる

人はギャップに弱いと言われるが、完全無欠に見えたキャラクターが、ふとした瞬間にだらしのない一面を見せたりすると、途端に人間臭く、愛すべき存在のように思えたりするものだ。


・キャラクターの弱点は魅力となる(中略)

むしろ弱点があることで、読者にとっては受け入れやすくなる。あのシャーロック・ホームズですら、コカイン中毒であるという大きな欠点を抱えているのだ。


・我が身をふり返って考えてみると、文章力向上に最も効果があったと思えるのは、自分が書いた文章を何度も推敲することだ。


・快適に読み進められない文章にはいくつかのパターンがあるように感じる。たとえば、難しい熟語や漢字が頻出する。説明がまわりくどい。一文一文が意味もなく長い。


・適切な改行タイミングとは、どのようなものか。これには明確なルールは存在しない。あくまでも“読みやすさ“を最優先に判断すべきだ。


・一昔前の世代に比べて昨今の若い世代は、みっしりと文字の詰まった状態への抵抗感が強い。うっとうしいので読み飛ばされてしまうこともあるかもしれない。適度な改行のもたらす効果は大きい。


・私は基本的に三人称一視点をベースにするべきだと考えている。


・「×は悲しかった」という表現はタブーだ。悲しいと言うのは感情であり、第三者がそれを主観的に述べることはできない。これが視点の揺れ、視点のふらつきである。では、どのようにすればいいのか。第三者の立ち位置で「×は悲しそうな表情した」などと書くべきなのだ。


・リーダービリティを演出する秘訣のひとつに、対立構造や複数の謎を仕掛けておく、という方法がある。重要なのは、読み手のテンションを維持すること。


・どんなことでもいったん文章化してみて、推敲の際に熟考し、やはり書くべきではないと判断したらければ削ればいい。


・文章や文体も、小説において大切な要素だ。読者はデリケートなもので、どこか一箇所でもひっかかる点があると、途端に読み進めるスピードを落としてしまう。


・セリフに頼りすぎるな


・会話が多くなりすぎる人一つの要因は、キャラクターに個性を持たせようとすることである。


・セリフに依存しすぎてはいけない。読み手の「説明」は、なるべく描写で行うべきというのが私の持論である。とくに最近は設定が複雑化しているので、いかにすんなりと読者に理解してもらうかが、書き手の腕の見せどころだ。


・カッコいい文章を目指すな(中略)

少なくともエンタテインメント系の新人賞であれば、「内容はイマイチだけど表現が秀逸だから受賞させよう」などということはまずあり得ない。


・文章の見映えで点数を稼ごうとするのではなく、内容でいかに減点されないかを考えるべきだ。


・日本語として誰にでも分かりやすい平易な表現を心がけたほうが、結果として小説としてのクオリティは上がる。文章力を鍛えることが大切だが、凝った表現を考えるために頭をひねるなら、その分アイデアをもっと煮詰める努力をするべきだろう。


・日本人にはもともと引き算の美学があるが、不要な部分、語りすぎな部分を積極的に削っていくことも、作品の質を上げるうえで欠かせない作業である。


・推敲の際に意識するべきは、読者を疲れさせないはしないか、ということだ。(中略)

スムーズに読み進めてもらうための手間を惜しむべきではないだろう。


・読者に感情移入してもらうためには、読者と立ち位置が近いキャラクターを設定すべきだろう。人は嫌いなタイプの人間や、自分とはかけ離れた存在には、なかなか感情移入することはできない。


・不思議なもので、女性というのは無能な善人よりも、有能な悪人に惹かれる傾向があるようだ。少しでも強いオスを求める、生物としての本能に根ざすところがあるのかもしれない。


・会話の描写で気をつけたいのが、三人以上の人数が入り乱れてしゃべるシーンだ。映画やドラマと違い、小説ではどうしても発言者を特定する術がかぎられてしまう。(中略)

しかもそれぞれ誰の発言なのかがすぐわかるように書き分ける力量が要る。


・現代を舞台に描かれた作品は、“いま“という時代を切り取った時代小説であると私は考えているからだ。だから、その時代にまだ存在していない物が登場してはいけないし、すでに廃れた物が頻繁に登場してもいけない。


・象徴的モチーフの効果(中略)

たいていの人はカラスにあまりいいイメージを持っていないだろう。ゴミを荒らし、死肉をついばむカラスは、そこに佇んでいるだけで不穏で不吉なムードを演出してくれる存在だ。こういった、特定のイメージをまとうモチーフは、それとなく作中に配置するだけで、長々と文章で表現する以上の演出効果を生むことがある。


・他のメディアのエンタテインメントの手法を、ひと通り押さえておくことは大切で、とくに一本の映画にはさまざまな表現手法が詰め込まれていると痛感させられる。第一線で活躍している作家に映画好きが多いのは、昔からそうした手法に自然と触発されてきたことが大きいのではないだろうか。


・優れたエンタテインメント小説は、「面白い」こと、加えて「わかりやすい」ことが肝である。(中略)

表現に凝りすぎないことや、読者を混乱させない


・新人賞対策としてやっておくといいのは、過去の受賞作を片っ端から読むことだ。大学入試でも資格試験でも“過去問“の分析は戦略的に大事だ。どのような作品が受賞してきたかを知るのは、傾向だけでなく、その賞が許容する“振り幅“を知る意味でも役に立つ。


・とりわけ独りよがりの印象を与えやすいのは、男性が描く女性キャラクターの言動や思考の描写である。あるいは殺人事件の動機が妙に利他的で、きれいごとに終始し、読んでいて腑に落ちないまま物語が展開していく作品も多い。


●書籍『エンタテインメントの作り方~売れる小説はこう書く』より
貴志 祐介 (著)
出版社: KADOKAWA (2017年10月初版)
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