藤脇 邦夫 氏 書籍『出版アナザーサイド』(本の雑誌社 刊)より
このウェブサイトにおけるページは、書籍『出版アナザーサイド』(藤脇 邦夫 著、本の雑誌社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・僕がこの業界に入ったとき、大手出版社の条件として次のような3点を聞いたことがある。つまり、
●週刊誌を持っていること。
●文庫を持っていること。●
●コミック雑誌及びそのコミックスを持っていること。
この3点を備えているのが大手出版社
・企画したのは、後に親しく付き合うようになる、三省堂書店の古谷洋さんで、当時は池袋パルコ店勤務だった。「出版社の味方シリーズ」の第1弾として、「白夜書房フェア ワイセツはタイセツ」という、今考えても冴えたネーミングを古谷さんが付けてくれて、ほとんど完売状態になった。
・伝説の呼び屋ー永島達司、今まで、この名前は音楽業界、興行の世界以外ではさほど知られていなかったように思う。だが、ビートルズに関心のある者にとっても絶対忘れられない名前だ。(中略)
戦後大衆文化史最大のイベントを取り仕切った唯一の日本側の当事者、それが永島達司(キョードー東京の創立者にして、大洋音楽代表)である。
・「ビートルズ来日公演」と「永島達司」について語る際に避けて通れない本が2冊ある。前者に関しては『ビートルズ・レポート』(話の特集増刊 1966年)、後者は『呼び屋 その生態と興亡』(弘文堂 1966年)で、いずれも故竹中労の著作である
・『ザ・ビートルズレポート』は初版部数(6000〜7000部だったと思う)が多すぎたのか、僕が書店営業的にまだ未熟だったのか、結果は赤字になってしまった。その時、営業会議で、「いろいろと書評も出て、内容的には評価されたんですが」と赤字について弁明していると、社長から「何だ、褒められただけか」の一言で片付けられ、返す言葉もなかった。しかし、この言葉は今考えても大きな意味を持っている。商業出版は利益を出すことが最終目的で、評価など二の次。
・まず、本を買う人がどういう気持ちで、ある本を買うのか。これは感覚的なものだが、こういうことがよくわかるものだと感心した一件がある。
マドンナ自身の構成による著書ともいえる写真集が出た頃、この売れ行きについて、「この本を買うことによって、買った人間はマドンナと同じものを持っていて同じ立場になれると思うんだな、だから買って持っておきたい。所有することによって、同じ価値観を共有できる、そう考えるわけだ」と言っていたが、書店側で、そういった女性の読者の気持ちまで分かるものなのか。
・見城徹氏(中略)
当時から、作家より知名度が高い編集者として有名だった。角川書店に入る前は、廣済堂出版に少しいたらしいが、75年に角川書店に入社、創刊したばかりの「野性時代」の編集者が実質的な出版業界でのスタートだったという。以後、70年代の新進作家のほとんどを「野性時代」から担当していて、宮本輝、村上龍、中上健次、高橋三千綱といった作家陣はデビュー前後からの知り合いだった。
・「こんなに音楽本を手掛けている音楽ファンなのに、どうしてレコード会社に入らなかったの?」と聞かれ、なるほどそういう道もあったのかもしれないと思わずにはいられなかった。
・紀伊國屋以外の書店で一番売ってくれたのが、名古屋のちくさ正文館だった。店長の吉田一晴さんは『名古屋とちくさ正文館』(2013年 論創社)を出したほどの人で、名古屋はもちろん、出版業界、書店業界で知らない人はまずいないだろう。
・ミュージシャンについての本の場合、必ずしもそのアーティストのCD等の実売枚数と本の売れ行きが正比例しない
・「パチンコ必勝ガイド」は当時発売されていたパチンコ雑誌の中でも後発でしかも三番手だった。(中略)
増刊1号は、確か12万部だった。すぐ反応があり、というのはこの時でさえ、CVSのPOSは書店の1部POSより早く、1週間前のPOSで50%超えていると、返品率は20%以内、つまり80%の売れ行きが期待できるという計算式があり、それに従うと次の部数はこのくらいという幸せな計算をしていくことになる。(中略)
CVSは販売した時間のデータ抽出ができるので、一番売れる時間帯が一目瞭然となる。そのデータによると、深夜1時が一番売れるという。つまり、ホールが11時に閉店になるので、その後、CVSで弁当を買うのと一緒に、今日の戦果の分析をするために買うわけだ。(中略)
そのデータにはもう一つ興味深いことがあり、深夜1時の次に売れているのは、午前中の8時〜9時だった。これは10時にパチンコ店が開店する前に研究するために買っていることを示している。開店の10時が一番売れないのは当たり前で、この時間は開店時に並んでいる貴重な時間だから、雑誌を買っている時ではない。
・一般のヌード写真的となればエロ本と呼ばれるものが、美術書の範囲に入ると、デッサンの実技書の一つとしてすり変わる、こういったトリックは後に、ワイセツか芸術かといった論争にまでなるが、現場の担当としては、当時からこれこそが出版の商機と利権と思っていた
・この本が出た2001年はまだアマゾンが上陸して間もない頃で、販路のほとんどは書店だけだったが、大滝さんの本にはレコード店というもう一つの大きな販路があり、ここでの売れ行きがすごい凄まじかった。
✳︎補足:「大滝さん」とは、大滝詠一氏のこと。
・最初のヒットが大きいほど、後の落ち込みも大きくなるもので、これは持論だが、新しく始めたものが続くのは3年間まで、それ以上続いたものが定期刊行物になる。
・僕にとって野上彰の名前は、何といっても、ボブ・ディランの「風に吹かれて」の日本語詞を書いた人として永遠に忘れることができない存在だった。
・デイビット・ローゼンタール。この人はサイモン&シュスターの名編集者で、在籍時にボブ・ディラン自伝を手がけたことで有名で、全米の出版業界で知らないものはいないほどの人物
●書籍『出版アナザーサイド』より
藤脇 邦夫 (著)
出版社: 本の雑誌社 (2015年12月初版)
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