九段 理江 氏 書籍『東京都同情塔』(新潮社 刊)より
このウェブサイトにおけるページは、書籍『東京都同情塔』(九段 理江 著、新潮社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・今日、衛生観念を持った人なら誰でも、「歯みがき」の本質は「磨く」ではなく「歯垢除去」にあると知っている。歯の表面をブラシで磨くよりも、歯と歯の間にフロスを通し、歯茎に溜まる歯垢を取ることに注力する方が、むしろ歯周病や虫歯の予防効果を高める。
・一九五八年、日本電波塔の愛称に「東京タワー」が選ばれたのは、名称審査会の中に日本語を忌避した日本人がいたからだ。一般公募でもっとも多くの支持を集めていたのは「昭和塔」だった。次いで「日本塔」、「平和塔」、「富士塔」、「世紀の塔」、「富士見塔」と続きながら、しかし結果的に応募数第十三位の「東京タワーに決まったのは、ある審査員の「『東京タワー』を措いて他に無し」の鶴の一声によるものだった。
・民主主義に未来を予測する力はない。未来を見ることはできない。
・あらゆるジェンダーの人が利用可能なトイレの区画に「全性別トイレ」と設計図にメモしておいたら、ファイルをシェアした直後に「ジェンダーレストイレ」と修正されていたことがあった。一番若いアシスタントが書き直したようで、「時流に沿っておらず厳密さと洗練さに欠けるうえ当事者への配慮に欠けるためです」と彼女
・いくら学習能力が高かろうと、AIには己の弱さに向き合う強さがない。無傷で言葉を盗むことに慣れきって、その無知を疑いもせず恥じもしない。人間が「差別」という語を使いこなすようになるまでに、どこの誰がどのような種類の苦痛を味わってきたかについて関心を払わない。好奇心を持つことができない。「知りたい」と欲望しない。
・犯罪者(中略)
彼らに厳しい懲罰を望んでおられる方々にお訊きしたい。
Q なぜ、あなたは「犯罪者」ではないのですか?
Q あなたが罪を犯したことがないのは、あなたが素晴らしい人格を持って生まれてきたからですか?
Q あなたが罪を犯さずにいられるのは、あなたの知能が高くて、自制心があるからですか? (中略)
私やあなたがこれまで「犯罪者」にならずに済んでいるのは、私やあなたが素晴らしい人格を持って生まれてきたからではありません。あなたの生まれた場所がたまたま、素晴らしい人格を育むことが可能な環境だったからです。
犯罪と関わりを持たずとも幸福な人生を歩むことができると、信じさせてくれる大人が周囲にいたからです。
あなたが良いことをしたり、学校で良い成績をとったりするの、大人たちが褒め、推奨してくれたからです。
彼らがあなたに、「次もまた良いことをしよう」というモチベーションを与えてくれたからです。
良いことを繰り返すうちに、目の前に困難な壁が立ちはだかっても、酷い失敗をしても、前を向き、未来に希望を持てるように育てられたからです。
幸福な未来への意識が働くと、罪を犯したらどうなってしまうのだろうという予測を立てられるようになります。
未来への想像力は、道を踏み外しそうになった時の協力な抑止力につながっているのです。
あなたがこれまでに罪を犯さず、クリーンに生きてこられたのは、あなたの幸福な特権のおかげに他なりません。(中略)
世の中には特権を持たずに生まれてくる人がたくさんいます。良いことをしても誰からも褒められず、むしろ、生まれてきたことを否定されながら大人になっている人々がいるのです。(中略)
つまり彼らは、「犯罪者」・「加害者」である以前に、「元被害者」であるケースが圧倒的に多いのです。本人が被害者であることを周りにうまく説明できなかったために、誰からのケアもサポートも受けられなかった、かわいそうな元被害者なのです。
・スポーツの語源(中略)
ラテン語の(中略)デポルターレが語源です。デポルターレとは、『運び去る』、『運搬する』を意味します。それらが転じて『義務からの移動』といった精神的な転換、仕事や家事などの『日常からの移動』を指し、やがて休養や気晴らしといった意味を含むようになりました。
・どうして『都』を入れたのかしら? 『東京同情塔』じゃなくて、『東京都同情塔』と言ったのは、なぜ?
・僕の感覚で言えば「同情を強いる」は、明らかな暴力だけれど、中には同情が優越感と結びついて、気持ち良くなる人もいたりするのかもしれない。
・「でも、犯罪者はこの中に入っているんですよね?」(中略)
「何が怖いんですか? 塔内だろうが塔外だろうが、みんな同じ世界に生きる、同じ人間ですよ」(中略)
誰が正しく誰が正しくないかという議論はここでは無意味である。
・皆が他人に寛容で、本当に心の底から平等を望んでいるのなら、分断も戦争も起こり得ない。でも、現実はそうじゃない。
・あらゆる不幸は他者との比較から始まる
●書籍『東京都同情塔』より
九段 理江 著
出版社 : 新潮社
発売日 : 2024/1/17
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