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「脳の活性化」ブーム乗り
大人向けぬり絵本 出版ラッシュ
大人向けのぬり絵本が、続々と出版されている。認知症の予防に効果的だとして老人施設などでぬり絵が盛んになっているが、そこに出版社が目をつけた形だ。すでに20社以上が参入。新たな企画を求めて編集者たちはさらに知恵を絞っている。
出版ラッシュの火付け役は河出書房新社の『大人の塗り絵』シリーズ。1年前に出した「美しい花編」は27万部の大ヒットに。その後、印象派の絵画を中心とした「フランスの風景編」や「春の花編」などを加え計6点で約66万部に達している。
担当編集者の竹下純子さんによると、老人介護のデイサービスの一つとしてぬり絵を始めた友人から「大人向けのぬり絵があっていい」と言われたことがきっかけの一つだったという。
「売れ行きにはびっくり。脳の活性化のブームに乗ったことが大きかった」
もっとも、ぬり絵が脳のはたらきをよくする、という実践データを確認しているわけではないそうだ。老人施設などで実践した人の「頭がすっきりする」などの声が“根拠”という。
河出の本の売れ行きを悔しい思い出見つめていたのが、小学館の編集者だ。
コミュニケーション編集局の堀井寧さんも、脳の活性化のための計算や漢字の書き取りのドリルの延長線上でぬり絵本の企画を約1年前に立てていた。ところが、社内から「お年寄りにできるのか」という反対が出て立ち往生。海出に先を越されてしまったという。
ようやく昨年末に『大人が楽しみ塗絵(ぬりえ)』シリーズとして「ルドゥテの花輪」など2点を出版。同時期に出版局家庭編集部からも『旅の画帖』というシリーズが出てきた。
『旅の画帖』の第1弾はj風景写真をもとに色を塗る「京都のぬり絵」。担当編集者
の小川美奈子さんもまた、河出の本が出る前から大人向けのぬり絵の企画を温めていたという。
小学館では別の編集者が8年前から昔懐かしい「きいちのぬりえ」シリーズを手がけており、ここからは、竹久夢二と高畠華宵のぬり絵も出た。こうして小学館では、いくつものシリーズが異なる編集部で作られる事態となっている。
このほか、講談社、宝島社、学習研究社、美術出版社なども参入。タイトルは『脳いきいき 大人のぬり絵』(竹書房)、『大人のための塗り絵三昧(ざんまい)』(ブティック社)などと似たり寄ったりのものが目立つ。
この混戦状態から、どう抜け出すかは編集者の腕の見せどころ。たとえば、竹下さんが手がけた『大人の塗り絵 クーピーBOX』が24日に河出から出る。色鉛筆などとセットにしたのがミソだ。
この分野はまだまだ伸びる余地がある、というのが編集者たちの見方だ。ぬり絵本の購入者は子どもの頃にぬり絵を親しんだ女性がほとんど。小学館も堀井さんは「男性向けの素材も考えている」と明かす。
もし男性に色鉛筆や絵筆を握らせることができれば、女性一色という勢力図を塗り替えられるが……。
(宮崎健二)
朝日新聞 2006年3月23日 「文化」より
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