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[ 出版業界のトピックス ]

女性誌・車雑誌に次ぐジャンルとは

静かに熱くパズル誌、花盛り

 パズル雑誌が増えている。いまやタイトル数は女性誌と車雑誌に次ぐ規模なのだという。何がそんなにおもしろいの?とやってみたら、はまってしまい睡眠不足ぎみの今日このごろ。電車の中でも鉛筆を片手に夢中になっている人をたまに見かける。静かに熱く盛り上がるパズル誌の世界をのぞいてみた。

読者の中心は女性「達成感」が魅力

 「数年ごとにパズルブームと騒がれますが、波があるとは思わない。むしろ、90年以降は人気が定着して、ジャンルが少しずつ増えていった。すそのが静かに広がっている感じです」

 パズル誌の“老舗”で、現在は「ナンクロ」など九つのパズル誌を発行している世界文化社パズル編集部の土肥由美子編集長はそういう。広がりを実感するのは書店のパズル誌コーナーだ。とにかく種類が多く、雑誌の中でも一大勢力にみえる。

 その傾向はデータにもくっきり。出版科学研究所によると、パズル誌は昨年末の時点で75誌あり、女性誌(135誌)と車雑誌(117誌)に次ぐ規模になっている。

 また、昨年だけで19誌も創刊された。ひとつのジャンルでこれほど集中的に刊行されたのは10年前のパソコン誌創刊ラッシュ(34誌)以来という。推定発行部数は3700万冊。ここ10年も3千万冊前後で推移していた。

 データをまとめた同研究所の村上達彦さんは「雑誌の種類はぐんと増えましたが、少部数化が進んでいるため、発行部数の伸びはそれほどでもありません」という。とはいえ、出版不況といわれる中でこれだけ元気なジャンルも珍しい。

 「読者層は圧倒的に女性。それに、町の本屋さんや郊外の書店で売れるのが特徴です」そう語るのは、昨年「スーパークロスワード」など4誌を創刊したマガジン・マガジンの取締役編集担当の吉岡俊尚さん。

 さらに夏より冬、首都圏より地方、で売れ、各誌とも賞品に現金やブランド品をつけて、読者獲得を競い合っているのが現状だという。

 雑誌が増えるのは、各社がパズルの種類ごとに雑誌を細分化していくため。最近、人気が高いのは「まちがいさがし」系で、2月にも2誌創刊された。子供と一緒に楽しめる点が主婦に支持されているという。

 愛好家の数は不明だが、世界文化社が開く全日本パズル選手権には、毎年10万通を超える応募がある。「日本は間違いなくパズル好きの国と思われている」と語るのはパズル作家の西尾徹也さん。

 原因は、欧米で一昨年から急に人気に火がついた“日本育ち”のパズル「sudoku(数独)」ブーム。もともと米国で「ナンバーピレース」という名で親しまれていたパズルを、80年代に日本のパズル制作会社「ニコリ」の鍜冶真起社長らがみつけ、洗練させた。

 西尾さんは3月イタリアで開かれた「第1回世界sudoku選手権」で4位に入賞し、世界パズル選手権にもオブザーバーなどの形で参加しているベテランだが、今回、イタリアでブームをはじめて体感した。

 「今まで見かけなかった若い参加者が目立ち、取材陣の熱気も違った。日本はパズルを進化させる国、というイメージでとらえられていたのが印象的。数独の魅力は何か、と何度も聞かれました」

 にわかにざわめいているパズルの世界だが、魅力はどこにあるのか。愛好家からクロスワードパズル作家に転じた東京都の高味裕さんは「クイズは知識を競うものだが、パズルは考えるもの。速さも関係ない。マイペースでひとりで向き合える。じっくり考えて解けた時の達成感は格別」と語る。

 最近の「脳を鍛える」ブームも人気の追い風になっているようだが、ニコリの鍜冶さんは「鍛えた脳って一体どんな脳よ」と笑いとばす。

 「きっかけは否定しないけれど、パズルは軽い気持ちで鉛筆一本で気分転換できるのがいいところ。意味がないことに夢中になれるのがいいんじゃないの」


朝日新聞 2006年4月8日 「文化芸能」 加来由子氏より