塩沢実信 氏より　（編集者研究の第一人者）

このページは、本や講演、セミナーなどから、教え学んだこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ転載しています。
　　　　　　　　　　　

・出版業者になることはやさしいが、長続きすることはむずかしい。この言葉を裏付けるのは、四千三百社はあるという現存出版社の創業年である。

九十三年度の「出版年鑑」によると、創業不明の五百六十社をのぞいて、戦前が四百二十四社、戦後三千三百社と、半世紀以上の歴史を持つ出版社は、１割程度にすぎない。

・戦前の出版界のジンクスに、「ベストセラーを出した出版社は倒産する」という物騒ぎなものがあった。戦後も、この高率な倒産出版社をみると、このジンクスがいまも生きているように思えるのである。

山本書店の山本七平は、『ユダヤ人と日本人』がベストセラーになったとき、ひきもきらない注文におそれをなして、いつ重版をうち切るかに腐心したという。

山本の出版理念は、「本はその本を必要とする人だけが買いにくるものであって、宣伝して無理に売るものではない」とい理念の持ち主だったからだ。

そして山本は、『ユダヤ人と日本人』が何十万売れようと、人をふやしたり、見ばえのする社屋に移るといったことをしなかった。そればかりか、まだ充分売れるというに、早々と出版をうち切って、角川文庫へゆずってしまった。

見事な見識といわねばならない。各出版社のオーナーが、山本の出版理念の爪の垢でも煎じて飲んでいたら、かくも無惨に倒産することはなかっただろう。

●それでも本は出す！　より
塩沢実信 著
\1,570（税込）
メディアパル 刊
1995年3月初版
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