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新しい本を開く場合に、よくいきなり強く開く人があるがそれはダメです。開かない本でも、開く本でも、このような本の開き方をしますと、本の背貼りが完全にやられてしまう。かがり糸がゆるんで、折り丁がずり出てこわれてしまう。
そこで、最初に本を開く場合には、机の上かやわらかいものの上に静かにおき、まず双方の表紙をのど元まで開くようにする。
次に本文を前から十ページぐらいめくり、のど元まで開いてから指先で軽くおさえ、また、巻末の方から同じように十ページぐらいをめくって、のど元まで開いてから指先で軽くおさえるようにします。
このようなことを本の中央まで交互に二、三回ずつくり返しますと、本が開きやすくなります。
現在の本の中には、用紙の選択や背加工の工夫によって、開きやすいようにつくられているものもありますが、出版物全般からみますと、まだまだ開きの悪い本が大部分を占めています。
したがって、新しい本を開く場合には、以上のような注意を忘れないようにしてほしいと思います。
さいきん、本製本を二つ折りにして読んでいる乱暴な本の扱い方をよくみかけます。普通、本を読むためには、一八〇度開けば十分であり、本はその読み得る状態を考えてつくられています。
本は金属などでできていませんから、常識をこえた本の読み方をしないように心掛けるべきであります。
また、週刊誌でも持つようなつもりで、書籍を丸めて持ち歩いているのをみかけることがありますが、これなども本の限度をこえた扱いであり、本をつくる立場からしますと、ぜひやめてほしいことの一つです。
本を読み進めるためにページをめくるには、天(上部)を軽くめくるというのが、正しいめくり方とされています。しかし、大部分の人びとは、下部をつまんでめくるように習慣づけられています。
下部をつまんで乱暴にめくると、とじ糸がゆるみやすく、ページが折れ込んだりする場合もあって、本の保存力を著しく弱めることになります。しかし、注意してめくれば、一般にはそれほど影響がないものです。
また、指先につばをつけてめくることや、読みさしのページの小口を折っておくようなことは、本のためにやめてもらいたいことであります。
そのほか、読書をする前後に、手を洗うという習慣をぜひつけておきたいものであります。
函から本を出す方法にはいろいろありますが、手づかみで函の中の本を出そうとすると、かえって本が出なくなるものです。そこで、机の上か膝の上に本の背をのせ、静かに函を上に抜くようにしますと、楽に抜き出すことができます。
また、函に収める場合には、まず函の下部と本の下部とを合わせるようにしてから、函の頭の方から本を入れるようにすれば、スムースに本を収めることができます。
このようなことは、一寸した工夫でありますが、知っておきたい本の扱い方であります。
書架に収めるというのが本の普通の保存の仕方でありますが、この場合、出し入れも容易にできないほどぎっしりつめることは、相互の本をいためることになります。本は楽に出し入れできる程度にならべるのが、適切な収め方であります。
また、大きな本や重い本・厚い本につきましては、無理に書架に収めるよりは、机の上か手ごろの場所に平積みしておく方が、本の保存の上からいってもよいことであります。
また、本自体の保存の上で、とくに問題になりますのが、革製の本であります。革の場合には、油気がなくなりますとボロボロになってしまいます。
革の防腐剤としては、卵白液やワセリンまたはパラフィンなどをベンジンにとかしたものが使われます。これらを、五、六年ごとに塗るようにしますと、革の質をそこなうことなく、いつも生き生きとした感じを保つことができます。
なお、革類にかびが生じた場合には、まずきれいな布片でふき、かびのために生じた斑点は稀薄なアルコール液でふきとるようにします。そして、アルコールが乾いたら脱脂綿か柔かい布で、革の細孔にワセリンを塗り込むようにすることです。
最後に、書籍の取扱いの上で、ぜひさけなければならない事柄を、箇条書きにいいます。
1 直接日光にあてないようにすること。
2 火にかざして読まないようにすること。
3 枕にして寝ないこと。
4 手につばをつけてページをめくらないこと。
5 小口を折らないこと。
6 本を開いた上で物を食べないこと。
7 湿気のあるものの上に置かないこと。
8 前小口を下向きにしておかないこと。
9 書架にまげて立てないこと。
これらのことは、一般的な注意事項として、古くからあげられていることであります。
●書籍「本をつくる者の心~造本40年」より
藤森 善貢 著
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※藤森善貢氏とは、岩波書店で40年本作りに携わった方です。特に、広辞苑、日本古典文学大系など岩波書店を代表するような本づくりをした製作者。
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