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寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏 2010年7月20日
2010年5月末にアイパッドが発売され電子書籍市場が拡大するとのマスコミの報道で出版業界は浮き足立っているが現状を冷静に考えてみたい。
電子書籍アプリはスマートフォン向けに限定されていて端末機・コンテンツも少なく比較が出来ない。日本語対応の統一したフォーマットも出来ていない。日本語のコンテンツを提供するにあたり、著作者の権利関係やデジタルデータの作成・配信手法・決済手法なども未だ検討中が多数を占める。
電子書籍新刊の原価計算をすると殆んど出版するたびに赤字となる。価格設定で売れ行きも変化し、消費者は出版社が考えている以上に価格については敏感である。マーケティングの能力の無い出版社は検討する必要に迫られる。
既刊本のデジタル化許諾権の確保をしても出版社がデジタル化するとは限らず、電子書籍化しても読者が購入しなければ出版社・著者に収入は無いことを認識したほうが良い。既刊本をデジタル化しても取次と書店を敵に回して配信する度胸は今の出版社には無いと思う。
日本の出版社の多くは、頭越しに著者とデバイスメーカーが契約するという米国流の方法を阻止したいという思惑が大きい。又、配信する電子書籍の価格設定権を出版社が握りたいとの思惑もあるが、委託の世界と違いマーケティング力を出版社は試されることになる。既刊本を電子化してもその価格はワンコイン以下でなければ売れないと思う。
事の本質は紙の本とか電子書籍とかの読者への伝達の手段ではなく、編集者の企画力・編集能力不足が現在の書籍返品率高止まりを招いている原因の一つであるので電子書籍に変わっても全うな本作りが出来ないと、読者は見向きもしないことがはっきりと現れるのが電子書籍である。現在の新書・文庫のバブル状況を見れば明白である。
世間で言われているような電子書籍が定着すると製紙・印刷・製本の売上を阻害するというような考え方を発言する方々が多いようだが、客観的な発言ではなく数字の裏付も無くポジショントークが多いようだ。電子書籍を購入する層は書店の客層とは全くの別物で、情報はネットをフルに活用しても、紙の本を購入したいとの調査結果が出ている。
英語圏と違い狭い日本語圏での電子書籍の販売数量はたかが知れている。英語圏の人口と日本語圏の人口を比較すれば日本語が世界中で売れるわけではないことが理解できよう、売れる期待にも限度がある。
電子書籍の出現が出版界の現状を変える救世主のように期待されているが、肝心の読者への意識調査や購買動向調査を実施もせず、今のところは話題先行である。読者の購買行動を見極めることもしていない状況で電子書籍の刊行は無謀と考える。
電子書籍の市場規模の発表がインプレスからあったが09年度574億円前年比23.7%。その主力は携帯コミックで513億円と全体の89%を占めている。新たなプラットホームに向けた電子書籍市場は6億円と推計されている。
2014年度には09年度の比較で約2.3倍の1300億円市場と予測されているが、デフレスパイラルに突入した現状で需給ギャップが30兆円を超え、紙の出版物も09年度比較で約10%以上下落すると予測されているのに電子書籍だけが伸びることは無い。携帯向け電子書籍も頭打ちとなり電子書籍のバラ色の幻想を持つことは要注意である。
欲しいと思う 41.3%
やや欲しいと思う 36.3%
あまり欲しいとは思わない 16.3%
欲しいとは思わない 6.0%
※調査会社調べ
購入したくない 6,948人 72.3%
購入したい 2,437人 25.4%
既に持っている 218人 2.3%
※ヤフー調査
3年~5年後に普及 30.2%
5年以上かかる 27.9%
日本では普及しない 22.3%
分からない 19.6%
※楽天ブックス調査
寄稿:出版流通コンサルティング 冬狐洞 隆也 氏
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