このページは、書籍『すし屋の常識・非常識(重金 敦之 著)』から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・「寿司」は江戸時代の「寿し」から変化し、おめでたい意味を込めた当て字で、明治時代から使われている。「鮨」は関東に多く、「鮓」は比較的、関西地方に多い。「寿司」は新しい店や、回転ずしの店でよく見かける。若い人や子供にも読めるからだろう。
・すし屋の湯のみは茶碗は、なぜあんなに大きいのか。答えは簡単で、屋台から起こった昔のすし屋は店を切り盛りする職人が一人しかいなかったからだ。要するにお茶を淹れ替えるだけの人手と余裕がなかったからにすぎない。手間を省いたのだ。そば屋では酒を出したが、すし屋では酒を出さなかった。すし屋で酒を出すようになったのは、大正末から昭和になってからのことだ。
江戸時代末期には屋台のすし屋が隆盛で、路地の入り口とか銭湯の脇に運んできた屋台を置いたといわれる。当時のすしはおにぎりのような大きさで、せいぜい一個か二個、腹ふさぎのおやつのような食べ物だった。
・ヅケの漬け汁は店によって異なる。煮きり醤油に味醂(みりん)を入れたり、出汁で割ったりする店もある。時間も五分か十分程度で充分だろう。長く漬け込んでしまうと、身が締まりすぎて黒変する。
・一般的に言って、マグロは四、五日から一週間は熟成させる。獲れたてのマグロは「コンニャクマグロ」と称するが、身がプリンプリンで硬い。アミノ酸が旨みに昇華しきれていない、とでも言えばいいだろうか。
・シンコというのは「新子」と書き、その年に生まれた幼魚を指すので、何もコハダばかりとは限らない。瀬戸内特産のイカナゴ(玉筋魚)のシンコも有名だ。(中略)
コハダはシンコ、ナカズミ、コハダ、コノシロ(鰶)と大きくなるにつれて名称が変わる。ブリやスズキ、ボラなどと同じだ。
・俗に「ハマグリは一夜に三里走る」といわれるが、実際には五十日で約二キロという記録があるそうだ。
・すし屋独特の隠語をお客が使うのは、品がないといわれる。ショウガをガリ、お茶をアガリという類である。しかし、このツメだけは困る。決して「タレ」ではない。タレは鰻や焼き鳥の場合に用いる。
※「ツメ」とは
アナゴを煮た汁に頭や中骨を加え、酒や砂糖を入れて、さらに煮詰めるところから生まれた。「煮」を省略し単に「ツメ」と呼ぶすし屋の隠語だったが、辞書にも「穴子の煮汁などを煮詰めたたれのこと。アナゴやシャコの表面に塗る」と書いてある。(※本文より抜粋)
・すしというと、どうしてもたねに話題が集まりがちだが、すしの味はすし飯でほとんどが決まる、といってもいい。
・すし飯のことを「シャリ」という。米粒が仏舎利(お釈迦様の骨)に似ているところからいわれるようになったのだが、かなり古くから用いられている。白米を「銀しゃり」というのは闇市から生まれた。
・京都にはタケノコの専門料亭がある。刺身、焼き物などタケノコ尽くしだ。しかし刺身といっても、まったくの「生」ではない。ちゃんと湯がいてあるのだ。料亭の女将によると、どんなに朝早く掘り起こしたタケノコでも、生ではちっともおいしくないという。「あれをおいしいと思うのは、イノシシくらいのもんでしょう」と笑っていた。(中略)
あるフードジャーナリストが書いたタケノコ料亭の紹介記事に、「新鮮なもの刺身で・・・・・・」と書いてあった。この文章を読んだ人は、「生で食べられる」と勘違いするに違いない。(中略)食べてみたものの火が通っていることに気が付かなかったのかもしれない。
・どんな順序で食べるのか
せっかく、「立ち」ですしを食べようとしても、何から食べてよいのかわからない人が多いことはすでに書いた、だから「お好み」より「お任せ」が楽なのだ。昔は、その店の仕事ぶりを見るために玉子焼きから食べるのが通だ、などといわれたこともある。今、そんな人はいないだろう。(中略)
酒でも食事でも淡い味から濃厚な味へという流れがある。
・空弁の焼き鯖ずしがヒット商品になった影響もあろう。だが、そもそもサバの棒ずしを炙るのは、翌日少し硬くなったのを温めるとおいしく食べられるという生活の知恵だ。京都の三条小橋にあった「松鮨」の先代、吉川松次郎さんに教えてもらった。もう四十年以上前も前のことだ。あくまでも、次の日においしく食べる次善の策であって、硬くならないうちに食べたほうがおいしいに決まっている。
・「ネグルメ(ネットグルメ)」たちは、「すし」ではなく「情報」をたべているように思えてくる。大間、大間と騒いでも、対岸の戸井となると、もう知らない。今や二本中に「気分や食通」状態の人が溢れ、「一億総料理店評論家」になってしまった。
●書籍『すし屋の常識・非常識』より
重金 敦之 著
朝日新聞出版 (2009年2月初版)
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