このページは、書籍『書く人はここで躓く~作家が明かす小説作法』(宮原 昭夫 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・「説明」と「描写」
小説の中で、例えば「美しい花」と書いたとします。これは説明です。その花に対しては、美しい、という見方しかしてはいけないということです。それに対して「紫色の小さな花」と書けば、これは描写ですね。これならば、ある人にとっては美しい花かもしれないが、別の人には地味な目立たない花かもしれない。(中略)
小説を「描写」によって書けば、読む人それぞれにさまざまな読み方をしてもらえる可能性が生まれます。つまり作品の持つ幅や厚みがぐっと増すわけです。同じ読者でも、何度読んでもその時々の境遇や気分によって微妙に違う読み方が可能になります。
・演奏というものは、楽譜が同じでも演奏者によって微妙に違ってきます。ヘブラーのモーツァアルトとブーニンのモーツァアルトとは同じ曲でも違ってくる。小説というものもそれと同じで、同じ作品でも読者によって違ってくるものだと思います。
・よい曲というものは、色々な作品でも演奏家がそれぞれに違った良さを引き出せるような曲なのではないでしょうか。
・読者それぞれがそれぞれに演奏出来るように小説を書く方法------つまり楽譜のように小説を書くための方法が、前項に述べた「描写」なのです。
・「効果反比例の法則」(中略)それは「一つの小説に、興味深い設定を二つ混ざ合わせると、読者に対する効果は、二倍にならずに二分の一になる」という法則です。
・優れたノンフィクションを書く秘訣は「十調べて一書く」ことだ、と言われています。つまり沢山のありのままの中から、少しのあるのままを選び出して、あとは削ってしまいます。ですから、ノンフィクションを書く場合のポイントは、何を書くか、ということと同じくらい、何を削るか、ということが重要なんですね。
・人物の苦悩を魅力的に描こうとする場合、銘記すべきなのは「苦悩が人物を魅力的にするのではなくて、人物の魅力が苦悩を魅力的にするのだ」ということです。これは、苦悩にかぎらず、作中の不幸、事故、迫害、失恋、あるいは幸運、勝利、冒険などでも同じことです。
・チェホフにこんな言葉があります。「書く技術、それは切り詰める技倆(ぎりょう)である。」「簡潔は才能の姉妹である。」
・小説を書く、ということは、作者のこれまでの人生体験で得たものを開示してみせる作業、というよりは、実人生では体験出来なかった、あるいは体験し足りなかった、新しいもう一つの人生を、書くという作業によって体験することなのだ
・どんな小説でも、それは作者にとって貴重である、というのが出発点なのは当然です。しかし、出発点はそのままゴールではない。作者に貴重なものは、そのまま読者に貴重とは限らない、ということです。これは言い換えれば、主観的に貴重なものが、そのまま客観的に貴重とは限らない、とも言えます。
・私はよく後輩に「わが子とペットと道楽は書くな」とアドバイスするのですが、これは「書いちゃいけない」という意味ではなくて「書くのは難しいから、よほどの苦労を覚悟して書け」ということなんです。たとえば親は自分の赤ん坊がすごくかわいい。もう何から何まで興味がある。ウンチにまで興味がある。しかし他の人は、赤の他人の子供のウンチなんかには何の興味もありません。この落差は大きい。
●書籍『書く人はここで躓く~作家が明かす小説作法』より
宮原 昭夫 著
河出書房新社 (2001年4月初版)
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