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岸 博幸 氏 書籍『アマゾン、アップルが日本を蝕(むしば)む』より

このページは、書籍『アマゾン、アップルが日本を蝕(むしば)む』(岸 博幸 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。


・出版業界の方の話を伺うと、「正確には2010年は“4回目くらいの”電子書籍元年」だそうです。


・四つのレイヤー(中略)

   ネットのレイヤー構造

       コンテンツ         マスメディア、コンテンツ
       プラットフォーム      クラウド・サービス、検索、SNS・・・・・・
       インフラ           通信サービス
       端末


・報道には二種類あります。事実報道と調査報道です。前者については、素人の力である程度代替できるかもしれませんが、後者については素人では無理です。調査報道というのは、地道な調査と蓄積の結果として初めて書けるものです。かつ、調査はネット上のデータベースを調べるだけは不十分です。


・誰がキーパソンであるか、誰が情報を持っていそうかなどの土地勘がなければ、情報は集まりません。


・自分なりに解釈すると、出版文化とは「多種多様な出版物(書籍、雑誌など)が広くあまねく国民の間に行き渡り、国民や社会の知的水準の向上に貢献すること」を意味するのではないかと思っています。


・プレイヤーの間で収益配分はどのようになっているのでしょうか。(中略)まず米国では、ハードカバーの書籍の場合はだいたい以下のようになっているようです。


著者:15%
出版社:35%
     うち制作費 3%
     マーケティング 4%
     印刷・流通 13%
     出版社利益 15%
書店マージン:50%


これに対して、日本ではだいたい以下のようになっているようです。


著者:10%
出版社:60%
     うち制作費 15%(初版のとき)
     印刷費 15%
     販売管理費 20%(在庫管理など)
     出版社利益 10%(完売時)
取次マージン:8%
書店マージン:22%


・出版文化の日米比較


         【米国】             【日本】

面積     984万km²            38万km²

人口      3.1億人           1.2億人

書店の数   9,000前後?        15,000
         うち大学書店 4,500
         キリスト教 1,700


図書館の数

公共図書館   9,200           3,200
大学図書館   3,800           1,700


・米国では未だに雑誌の売上げの7割は定期購読であり、郵送で購読者の家にまで配達されています。ついでに言えば、売上げの残りの3割は店頭販売ですが、そのうち書店が占める割合は11%にすぎず、店頭販売の9割は書店以外の場所(スーパーストアやドラックストアなど)で売られているのです。


・日本では(中略)最初から最後まで読み通すのが当たり前となっているのではないでしょうか。


また、別の専門家の方に言われると「米国人にとって読書は消費と位置づけられている」とのことです。休暇にはリゾートに何冊も本を持っていって、読み終わったら捨てることも多い、とのことです。


・米国の電子書籍のビジネスモデルは、米国の出版文化や出版事情に適合したモデルであることに留意すべきではないかと思います。(中略)


“読書は消費”という価値観からして、書籍の造りとか装幀には感心がないはずですので、一つの端末にたくさんの書籍を蓄積できるのも大歓迎のはずです。


・米国での紙の書籍の平均価格は、ハードカバーで26ドル、ペーパーブックで13ドルです。そして、売上げの関係者間での配分はどうなっているかというと、もちろん決まったルールなどは存在しないのですが、米国の専門家が多数の出版社にヒヤリングした結果の推計値は以下のようになっています。


$26のハードカバーの売上げの分配

$13.00:書店に
$13.00:出版社に
       $3.90:著者のロイヤリティ(小売価格の15%)
       $3.25:印刷・流通・在庫
       $0.80:表紙デザイン、編集などの費用
       $1.00:マーケティンクグ費用
       $4.05:出版社の利益(この中から人件費などの経費を支出)


つまり、ざっくりと言って、売上げの50%が書店に、15%が著者に、12%が印刷・流通・在庫に行き、出版社の利益は人件費込みでだいたい15%であることになります。


それでは、電子書籍はの場合はどうでしょうか。30:70の売上配分の下での推計値は、以下のようになっています。


$12.99の電子書籍の売上げの分配

$3.90:電子書店(アマゾン、アップルなど)に
$9.09:出版社に
       $3.25:著者のロイヤリティ
       $0.50:データのデジタル変換、編集などの費用
       $0.78:マーケティンクグ費用
       $4.56:出版社の利益(この中から人件費などの経費を支出)


つまり、これもざっくりと言って、売上げの30%がネット企業に、25%が著者に行き、出版社の利益は人件費込みでだいたい35%であることになります。


・日本での売上げの配分は(中略)

紙の書籍については、一般的に以下のように配分されると言われています(大和証券キャピタル・マーケッツ調べ)。


1700円の書籍の売上げの配分

374円:書店に
136円:取次に
170円:著者印税
442~476円:紙代、印刷、製本代、在庫・返品管理
544~578円:出版社利益(この中から編集・制作費、人件費を支出)


つまり、書店のマージンは22%、取次のマージンは8%、著者印税は10%、出版社の取り分は人件費を入れて30%台前半です。(中略)


この数字を米国の紙の書籍の配分と比較すると、日本では書店の取り分が少ない一方、印刷・流通・在庫のコスト(取次マージンに印刷関係のコストを加えたもの)が高いことが分かります。


・リアルの書店は、“知”の世界で思わぬもの、新しいものに出会う機会を提供してきたものです。“知”の範囲の拡大という観点で、民主導で出版文化が繁栄した日本においては、書店が重要な役割を果たしてきたのです。


・レコメンデーション機能は、ユーザーが購入した本のタイトルなどをキーワードに関連する書籍を探しますので、どうしても購入した本と同じジャンルの書籍ばかり出てくることになります。


かつ、書籍を検索する場合は、自分が知っているキーワードや著者名を入力することになりますので、自分がこれまでまったく知らない、興味も関心もなかった分野の新しい書籍に出会う可能性はかなり低いと言わざるを得ません。


・つまり、電子書店では、自分がこれまで購入した本と同じジャンルの書籍か、自分の知識の範囲内のキーワードが関連する書籍か、売上げ上位10位とかのベストセラーくらいしか、自分の目の前に現われないのです。


・それでは、リアルの書店の数が少なく、電子書店の機能にも限界がある米国のおいて、米国人はどうやって“知”のserendipityを実現しているのでしょうか。


米国における“知”の普及の中核を担った図書館で、それはある程度実現されています。もう一つは、新聞などにおける書評欄の充実です。米国の新聞を読むと分かるのですが、書評欄の充実ぶりは日本の比ではありません。かなり広範囲かつ詳細な内容となっており、かつ米国人はそれをかなり参考にしているのです。この辺にも、日米の出版文化の違いが表れているのではないでしょうか。


・出版産業「不要説」には無理がある(中略)

印刷会社は紙への印刷以外にも、デザインや書籍の版組みなど出版社を補完するさまざまは業務を行っています。電子書籍でも、それらに類似した作業(書籍の内容の電子データへの変換など)は必要になるのです。


・出版には副業がない(中略)

他のマスメディア/コンテンツ産業と出版産業の間には決定的に大きな違いがあることを忘れてはならないと思います。その違いとは何でしょうか。出版産業の収入源は書籍や雑誌しかないのに対して、他のメスメディア/コンテンツ産業は複数の収入源を持っているということです。


音楽産業を例に取れば、(中略)たとえばコンサート、ファンクラブ、アーティスト・グッズといった音楽に関連する事業はネットに侵食されていません。テレビ局についても、ネットが電波の広告収入に大きな影響を与えていますが、テレビ局がブランド力を活用して展開しているイベント・ビジネスなどの関連事業は侵食されていません。


・米国で図書館が電子書籍を積極的に導入するのは、“知”の普及の中心のおいてネットやデジタルの力を活用する


・すでにオーストラリアなどの海外の図書館で導入されているような、ベストセラーや新刊書の図書館での貸し出しは有料にするなどの措置も検討する必要があるのではないでしょうか。無料での貸し出しは民業圧迫そのものだからです。


・昨年末に発表された米国のPew Research Centerの調査によると、米国ではネット・ユーザーの65%がネット上のコンテンツに対価を払っていましが、その半数近くはせいぜい月1~10ドルしか使っていません。つまり、(中略)圧倒的な安価で大量に販売することが志向されています。


・人と同じことをやる人も増えているようです。たとえばフェイスブック上で“オープン・グラフ”という機能を使うと、友人が何を読んでいるか、何を観ているか、何を食べているかなども知ることができます。米国では、その機能を使って、友人がやっていることと同じことをする人が意外にも多いらしいのです。


・ネット上でも“四つの自由”(表現の自由、信教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由)が守られるべきであり、そのためには“ネットに接続する自由”が必要と主張しました。


・ネット上で断片的な情報を調べてばかりいたら、決して体系的な知識は身につきません。体系的な知識を身につけるには、まとまった書籍などを通読することが必要です。その上で、体系の一部分についてネット上で調べて情報や知識を補完するならば、ネットは非常に役立つツールになります。しかし、逆に最初からネットで検索ばかりをして調べていたら、断片的な知識ばかりになり知識の体系化はほぼ不可能です。


・MMD研究所が2130人のケータイ・ネットのユーザーを対象に行った調査によると、回答者の89%がネット上では匿名を希望しているとの結果が出ています。


・匿名性には悪い部分と良い部分があります。悪い部分の典型はネット上でのイジメの横行です。(中略)社会に適応できないニートなどの若者にとって、ネットは社会との最後のつながりでありセーフティネットとして機能している面があります。もし匿名性を否定したら、社会に適応できない若者のセーフティネットを奪うことになりかねません。


・ネットに関する技術の大半は米国発です。(中略)


その理由は、もともと“パクリ”と“洗練昇華”が日本のお家芸だからです。(中略)


よく言われる「日本人にはオリジナルティがない」という批判は、半分は当たっていて半分は外れていると思います。ゼロから構想するのは得意ではないけれど、外から来たものを洗練昇華させて新たな価値を作り出すという点では凄まじいまでのオリジナルティを発揮してきたのです。


・米国のジャロン・ラニエーはその著書の中で、個人がネットの中で“クラウドの一部”になってしまわないために心がけるべきことのリストを書いています。(中略)


「ウィキペディアなどの匿名の場のコンテンツの充実に割く時間があったら、実名であなた個人の考えを公開し、関心を持った人が学べるようにしなさい」(中略)


「ツイッターをやっているなら、些細な日々の出来事ではなく、あなた自身の考えを表現しなさい」


●書籍『アマゾン、アップルが日本を蝕(むしば)む』より
岸 博幸 著
PHP研究所 (2011年3月初版)
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