このページは、書籍『何がなんでも作家になりたい!』(鈴木 輝一郎 著)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・ひとつの目安としては、「自分の本が書店の棚から消えないうちに次の本を出す」のがベストではあります。もちろんこれは個人差があって、一年間棚差しで置かれるタイプの著者は年一冊のペースで腰を据えて書くことができますし、一ヶ月しか店頭に並ばない人では、限りなく月刊誌にちかい速度で書かないと生き残れないといったことがあります。
・絶対にやってはいけないのは、『直しの指示が気に入らないので、内密に別の出版社に原稿を持ち込む』ことです。『原稿のダブルブッキング』ってのは、この業界では数少ない禁忌のひとつです。
・結局、その出版社はその後もデスクと担当者の異動があって、全面改稿九稿(四千五百枚書いて四千枚捨てる、ってことです)で入稿し、一冊にまとまりました。
・「ゲラ」は業界用語で、英語の『galley』が訛ったものです。もともとは拾い上げた活字を組む、浅いお盆のことで、校正用にここに組み上げたまま試し刷りにしたものを「ゲラ刷り」といい、それが省略されて今日にいたっています。
・「校閲」と「校正」は混同されやすいのですが、文字の間違いを訂正してゆくのが「校正」、内容にまで踏み込むのが「校閲」ですね。
・言葉というのは風邪薬と一緒で、それ自体に人を治す力はないんですが、治そうとしている人の「心の背中」を押す力にはなる。本の面白さは完成度よりもむしろ読み手側の情況に左右されるところが大
・よく新聞広告などで「×万部突破!」とかいった広告が出るのは、あくまでも刊行部数のことであって、実際にどのぐらい売れているのかは、出版社しか知りません。
・著者のサインというのは書籍流通上は『汚損』の扱いになり、店頭在庫に著者のサインがあると返本できなくなります。デビューしたばかりの新人の小説家は「どこの書店でもサイン本は喜んでもらえる」とちょいちょい錯覚しますが(中略)、店頭在庫の本にサインをするのは、書店からは物凄く嫌がられます。
・『文芸書籍編集者稲穂の法則』ってものがあって、文芸書籍の業界では、経験豊富で『遺り手』と言われる編集者ほど、無名の新人に対しても深く頭を垂れる傾向があります。(中略)そいつがある日突然、自分の部署の存否を左右されるほどに『大化け』したときに報復されたらたまらないから、ですね。
・『原稿料』(中略)
どのくらいもらえるものかというと、ぼくの場合、最高で原稿用紙換算一枚六万円。最低は二十枚書いて千五百円のカステラ一本だったから------七十五円か。
・『印税』は『税』とついているので所得税と間違えられやすいのですが、正確には『著作権使用料』というもので、刊行物について、出版社から著者に支払われるものです。
・ごくまれに『実売印税』といって、実際に売れた数だけ印税が支払われる場合がありますが、普通は刊行部数に応じて印税が支払われます。「返本ぶんだけ印税を返せ」と言われることもありません。
・企業の講演仕事の場合は、オファーが来た時点で、聴衆のほとんどが寝ているのが予想されるので、ある意味では楽かな。
・同業者のなかでも忘れられる場合が多いのですが、小説家の収入は、質に対してではなく、量に対して支払われます。よく売れる作品を書けば、本が売れて重版がかかったり、映像化がされやすくなったりと、結果的に不労収入が増えるということです。ただし、売れるか売れないかは、店頭に並ぶまでは誰にもわからない。
・日本推理作家協会(http://www.mystery.or.jp/)は社団法人で、主たる事業が『江戸川乱歩賞の主催による新人の発掘』『推理作家協会賞による既存作家の顕彰』『推理小説年鑑の編纂』の三つ。会員数は五百人ぐらいいたかな?新年会、推理作家協会賞授賞式、夏の懇親会、江戸川乱歩賞授賞式、と、年に四回パーティがあります。
・冒険作家クラブは(中略)まったくの親睦団体で、法人格はありません。主たる事業は年に二回のパーティぐらいです。会員数は・・・・・・ええと、忘れました。推協よりもかなり少ないはずです。会員構成や、パーティに出席する編集者は推協と重なり、規模に比べて小説家営業の面では強いと思います。
・日本文藝家協会(http://www.bungeika.or.jp/)は、もともとは菊池寛が業界関係者の福利厚生のために設立した団体だけに、福利厚生の面は充実しています。
・日本ペンクラブ(http://www.japanpen.or.jp/)は、他の法人格を持つ同業者団体が文化庁の管轄下に置かれているのに対し、唯一外務省所轄の団体なのだそうです。世界的組織で本部はロンドン、国際ペンクラブ会館がパリにあり、日本ペンクラブはその日本支部とのこと。
他の団体と違うのは、小説家の他、詩人、脚本家、エッセイスト、評論家などにも門戸が開かれているところ、ですか。
・その他に日本文芸家クラブ、SF作家クラブなどがあります
・誰かにあなたの心の叫びを聞いてもらう手段として小説を選ぶのならば、職業小説家を目指すべきではありません。(中略)
作品を公表することは、読者の罵倒を甘受することでもあります。作品と自分を同一視するとき、作品を読者から否定されたら、それはあなたの存在を否定されることになります。
そしてもうひとつ。ここまで書いてきたように、職業小説家とは、まず書き、書き続け、読者の審判を仰ぎ続ける状態にあります。誰かに聞いてほしいという動機だけだと、すぐにネタが尽きるということです。
・修業時代において、確保すべき共通する絶対必須要件が三つあります。『書いている間の収入』『書く時間』『書く場所』です。
・推理小説の場合、権田萬治&新保博久監修『日本ミステリー事典』(新潮社)には『受賞一覧』のリストがあり、推理各賞の候補作と刊行されたものまでリストアップされているので参考になる。
・長編の新人賞は、受賞すれば必ず単行本として刊行されます------というか、そもそも長編の新人賞は単行本にするのを前提として設定されているのものです。受賞された瞬間からあなたは小説家としてのスタートを切ることになります。
・業界内一般常識の話(中略)
まず第一。出版社が主催しているか、共催している新人賞を選んでください。地方公共団体や、出版とは無関係な法人が主催する新人賞は、仮に名の通った小説家が選考委員になっていたとしても、受賞経験が小説家のキャリアとしてはカウントされないと思ってください。
・江戸川乱歩賞は、日本推理作家協会(注・推協は講談社の外郭団体ではありません)が、主催していますが、後援者となっている、講談社から刊行されることが慣例になっています。
・松本清張賞は、日本文学振興会が主催しています。これは出版社と関係なさそうに見えますが、芥川龍之介賞や直木三十五章を運営している、文藝春秋の外郭団体で、受賞作は文藝春秋から刊行されます。
・日本ミステリー文学大賞新人賞は、光文シエラザード文化財団の主催。こちらは光文社の外郭団体で、受賞作は光文社から刊行されます。
・書けば書くほど、自分の作品は、出来が悪いのじゃないかと思えてくるようになる。しかし、それは自分の作品が悪いのではなく、自分の目が肥えてきた証拠で、実は筆力はあがっています
・あなたが受賞することは、他の応募者の夢と希望とチャンスを踏み倒すことでもあります。その怨嗟を晴らす手段は、ぼく自身の経験から断言しますが、あなたが成功して、落選した人が「俺は落ちたが、あの人と競り合ったのだ」と胸を張れるようになることだけです。
●書籍『何がなんでも作家になりたい!』より
鈴木 輝一郎 著
河出書房新社 (2002年9月初版)
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