このページは、書籍『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(大原 ケイ 著、アスキー・メディアワークス 刊)から、良かったこと、共感したこと、気づいたことなどを取り上げ紹介しています。
・ロマンスはひとえに次々と読みまくるので、とにかく質より数が求められる世界。(中略)ちょっとお試しで、無料で読んでもらうのが効果的なものもこのジャンルだ。リブレデジタル社内統計では、16%のお試し読者がお金を払って購入するに至るという。
・キンドル(中略)アンダーライン共有機能。同じ本を読んだ他の人が、どの部分に下線を引いたのかがわかる。要するに感動の共有だ。これこそが、紙の本で実現しえなかった新しい読者体験の一つになるだろう。
・日本の本のサイクルは異常に短い。原稿が上がり次第、出たとこ勝負のインスタント出版。アメリカの編集者仲間に本を書いていると言ったら、「来年のいつ頃に出るの?」と訊かれ、「1ヶ月ちょっとで書いて、3ヶ月後に書店に並ぶ」と答えると、一笑に付されてしまった。
・グーグル・プリントの攻防と和解裁判の行方(中略)
図書館側は本を提供する代わりに、スキャンによってデジタル化されたデータを受け取る契約が交わされた。
・訴訟社会アメリカと出版社の考え方(中略)
グーグル側の見解は、グーグル・プリントによって、著者の作品が見つかりやすくなり、ひいては購入・印税収入につながる手助けをしているのであって、著者側が損をするわけではないし、出版社を中抜きする動きでもなく、米著作権法になんら違反はしていない、というものだった。しかも、著者には「オプト・イン」、つまり版権が切れていない作品については検索結果からすべて外すことができるというオプションや、紙の本の購入にもつながるリンクをつける用意もある、と出版社にアプローチしていた。
・アメリカ国内でのアマゾンのサービスやビジネスモデルをつぶさに観察していると、日本での活動はまだ「様子見」の状態だと察せられる。(中略)アマゾン側も、きちんとQCに目を光らせていなかったりと、本国のサービスや対応には及ばない、ワンランク下のクオリティーで商売しているように思えてならない。
・キンドルの目的は、キンドルという機械で本を読んでいるということを意識しないで作品に没頭してもらうことであって、「かっこいい機械だな」とか「へぇ、こんな機能もあるのか」と感心してもらうことではない。要するにキンドルはダサくていいのだ。
・アメリカの本の卸値システムについて触れておこう。基本的に注文部数が多くなるにしたがって、仕入れ値のディスカウント率が高くなる。版元に直接オーダーするのが一番安く、取次からだと数%がマージンとして上乗せされて仕入れ値になる。どんな規模の店でも、大量の部数を注文すれば、最大で定価の55%に近いディスカント率で版元から直接、本を仕入れることができるシステムになっている。大型書店チェーンを優遇したりすることは、公正取引法で禁じられている。そして仕入れた本は、どんな値段で売ろうともそれは売り手の判断に任せられる。
・電子書籍のコスト(中略)
どんぶり勘定どころか風呂桶のような大雑把な数字で申し訳ないが、ハードカバーの本1冊(約25ドル)を作って売った場合、その売り上げは以下のように分配される。これはおそらく、日米でそんなに違いはないだろう。
①著者とエージェント(いわゆる印税) 約10%
②出版社(編集、印刷、製本、マーケティング) 約50%
③ディストリビューション(いわゆる取次業) 約10%
④リテイラー(いわゆる書店) 約30%
・出版社側としては新刊がチョロチョロッとベストセラーになるより、ロングセラーがいくつかあった方が安定する。『7つの習慣』はオーディオ版でも業界初のミリオンセラーとなり、今でも本と合わせれば、毎年10~15万部は出ているだろう。
・パウロ・コエーリョも世界を股にかけるベストセラー作家だ。『アルケミスト------夢を旅した少年』は、本国ブラジル国内で20万冊、世界で6000万冊出ている。
・「ジャック・ダニエルズ」警部補シリーズのJ・A・コンラスは、(中略)彼は過去にボツにされた短編や小説電子書籍版を自分で作り、キンドルにアップロードした。価格、表紙のデザイン、テキストについていろいろと実験を重ねた結果、1冊2~3ドルにすれば一番効率がいい(=儲けが多い)ことなどを発見し、その細かいプロセスをブログに書いている。
・私の知る限りアメリカ、そしてヨーロッパでは、基本的に一人の著者にはその国の担当エージェントが一人、著作はすべて一社から、担当編集者も一人、というのが原則だ。
・時折、日本のマスコミでも、アマゾンがリアル書店を出すのではないか、という見当違いな予想を述べる輩も見かけるが、それこそアマゾンという会社をわかっていない者の発言だ。
・エージェンシー・モデル(中略)
電子書籍をいくらで売るかは各出版社が決め、アップルは売り上げから30%を受け取り、残りの70%を渡すから、後は権利者でいいように分けてくれ、というものだ。売り手が一律のコミッションを取る形になることから「エージェンシー・モデル」という名前がついた
・アップルが「エージェンシー・モデル」を持ち込む前は、「ホールセラー・モデル」といって、紙の本と同じ掛け率で電子書籍を売る側が「仕入れ」ていた。つまり、出版社側は最初に「これ以上の値段では売ってはいけない」という「定価」をつけて、一定のディスカウント基準にしたがって、どこにでも同じ条件で本を卸すことができた。
・アメリカでは州によって税率も異なる。紙の本には消費税がかかるが、電子書籍ならかからないという州もある。キンドルであるか紙の本であるかにかかわらず、アマゾンの本社や倉庫がある州で消費税がかかる州があったりなかったりする。
・著者にも電子書籍支持派と否定派が(中略)
たとえば、海賊版を出されるのがいやだから、自分の著作はいっさいキンドルなどの電子書籍版を作らない、と主張するのだが、正規のEブックがないからかえって海賊版が出回ってしまうことを理解していないようだ。
・バーンズ&ノーブルは、店内で無料Wi-Fiを提供し、客が自分のヌックを持ち込めば、自社にあるすべての本が無料で“立ち読み”できるようにしている。
●書籍『ルポ 電子書籍大国アメリカ』より
大原 ケイ 著
アスキー・メディアワークス (2010年9月初版)
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