このウェブサイトにおけるページは、書籍『辞書を編む』(飯間 浩明 著、光文社 刊)を読んで良かったこと、共感したこと、気づいたこと、こんな視点もあるといった点などを取り上げ紹介しています。
・「編纂」とはむずしいことばです。「(辞書などを) 編むこと」と考えて結けっこうですが、もっと簡単に「編集」と言ってはいけないのでしょうか。
私は、2つのことばを区別して使っています。「編纂」とは、ごく大ざっぱに言えば、材料を集めて、辞書の原稿を書く仕事です。一方、「編集」とは、その原稿まとめて、書物の形にする仕事です。
・国語辞典の「改訂」と言われても、ぴんと来ない人の方が多いと思います。改訂とは、単なる字句の微調整ではありません。辞書の全体的な内容を改めて見直す作業です。
・青果店や洋菓子などの前を通ると、この言葉によく出合います。〈甘熟バナナ〉〈甘熟トマト〉〈甘熟焼き芋〉など、枚挙にいとまがありません。(中略)
ところが、新聞記事や文字文学作品を読んでいるときに、このことばを見出すことはあまりありません。「完熟」は出てきても、「甘熟」は出てこないのです。
国語辞典にも、今のところ「甘熟」は載っていません。国語辞典は、資料とする範囲が新聞の文章や文学作品などであることが多いため、そこに出てこない言葉は項目として立ちにくい傾向があります。
・私たちの編纂する『三省堂国語辞典』を生み出したのは、見坊豪紀(けんぼうひでとし)という辞書編纂者でした。初版から第4版まで編集主幹を務めました。彼が『三国』を編纂していた頃の方針を、今の私たちも、ずっと受け継いでいます。(中略)
この人のどこがすごいか、どこが神様なのか。一言で言えば、生涯に145万語の日本語の用例を採集した、ということに尽きます。
・どんなふうに頼めばいいかは悩むところです。「国語辞典の資料にしたいので」と言っても、あまりに唐突すぎて、理解してもらえそうにありません。(中略)
店先に並ぶキャベツに目が止まりました。この場合は、写真を撮りたいということだけを、店の人に素直に話してみました。
「このキャベツ、いい色ですね。写真撮っていいですか」
「ああ、どうぞどうぞ」
無事に写真が撮れました。もっとも、私の本当の目的はキャベツ自体でにはなく、その値札に書いてある〈やわらかキャ別 1個¥150〉という文字にありました。
・ことばとの出会いは一期一会みたいなところがあって、一度見失うと、かりに同じ週刊誌を買ってまた探そうとしても、すべてのことばに再会できるかどうかは分かりません。失って初めて、用例の貴重さが分かります。
・「できが悪い子どもほどかわいい」と言いますが、辞書には載せないと決めたことばも、私にとってはかわいいのです。
・飲食店では、「旬菜」と似たことばとして、「旬鮮」も使っています。「旬で、新鮮」ということです。「旬鮮な食材」のように「な」をつけて使います。これも、文学作品ではあまり見かけませんが、街では大いに目にするものです。
・『三国』新規項目は、約4000語と決定されました。(中略)
編集委員の「実働部隊」たる私たちだけでは、さすがに手に余ります。外部執筆者の人々に協力を得ることになりました。全部で6人、いずれも日本語学の研究者です。
・小型の国語辞典では、とりわけ、「要するに」ということを、誰にでも分かるように説明する必要があります。そのためには、その分野の専門家は適任でないこともあります。もっと一般の利用者に近い人のほうが、かえってうまく説明できる可能性があります。国語辞典の編纂者は、まさしくその立場にいます。
・辞書を引いた利用者にも、「要するにそういうことか」と分かってもらえることを期待しています。
・そもそも、改訂というプロジェクトは、従来の版の記述を全般的に見直すことを言います。新しい項目をつけ加えで一丁上がりではありません。新規項目の追加は、あくまで改訂作業の一部に過ぎません。
・国語辞典各種、「右」に悩む(中略)
みぎ【右】(ニギリ(握り)の転か) ①南を向いた時、西にあたる方。↔︎左。(『広辞苑』第6版)(中略)
みぎ【右】(中略)アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示のある側。(中略)。(『新明解国語辞典』第7版)
・かくして、手入れの重要性は、一般の人にはあまり知られないままになります。「手入れをしなければ、辞書は朽ち果てていく」とは、この章の最初に述べたことですが、そのことを認識してる人は少ないでしょう。
・『三国』の初版(1960年)は、小学校高学年から中学にかけての利用者を念頭に置いていました。(中略)
ところが、飛田先生によると、『三国』は、やがて、子どものお母さんもターゲットに入れるようになります。書店で実際に辞書を選ぶのは母親なので、彼女たちにも支持されるないようにすべきだと考えたようです。
・フリー辞書と言う脅威(中略)
「ウィキペディア」です。匿名の多数の人々が、自由に書きこんだり訂正したりして作る百科事典です。誰が書いたか分からない文章では信用できない、と侮ることはできません。人々の集合知とはおそろしいもので、全体として、8〜9割程度の正確さはあるように見えます。日常生活で、大まかなところを知りたいだけなら、これで十分間に合うとも言えます
・辞書が電子版という形で供給されるようになると、「小型辞典」「大型辞典」という区別は、ほとんど意味をなさなくなります。小型も大型も何も、スマートフォンに入れれば、どれも同じ大きさです。
・本書のタイトルは、見坊豪紀の著書『辞書をつくる』を踏まえてもいるのですが、ご想像通り、三浦しおんさんの小説『舟を編む』を意識しています。
●書籍『辞書を編む』より
飯間 浩明 (いいま ひろあき)(著)
出版社: 光文社 (2013/4/17)
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